おともだち
「引かないでって、言ったのに。って無理だよね。ごめん、聞かなかったことにして」

 パンっと顔の前で手を合わせ、彼女は懇願するように言った。

「え、うん。いや、いやいや。無理。フラれんのはそれなりに納得するとして。“セフレになる”のがなんで『同じ気持ち』になるわけ? 俺もセ……いや、待て。待て。待ってくれ」

 頭ん中がぐちゃぐちゃでちょっと整理が必要だ。頭を抱えて考える。酒を追加で煽る気は無かった。酔ってる場合でも楽しく酒を飲んでる場合でもなく、えっと、彼女が求めてるのは……恋人ではなく、セフレ。自分が好きになった子がそんなオトモダチを求めてることにも驚いたし、がっかりする。でも、何でだよって思う気持ちもあって、まだ諦められない自分もいた。……この子、何を考えてるんだろう。

 ちらり、横を見ると落ち込んでいるようだった。
「なあ、俺もそういうの求めてたように見えたってこと? ワンナイトとか……言いそうって? 」
 心底がっかりして言うと
「……ごめんなさい。イメージとか、そういうので勘違いしてしまって。だって、自分が彼女対象になれると思っても無かったんだもん」
「どんなイメージだよ」
「モデルさんとかインフルエンサーとか、そんな人じゃないと彼女になれないのかなって」
「は? 俺、普通のサラリーマンだけど。なにそれ、そんな人出会ったことないし、ツテもない。別に興味もない。あと、ワンナイトするならこんな近い人選ばないよ。それから、俺、セフレいたことない。少なくとも、恋人と呼べる人としかそんな関係になったことも無い」

 ため息が出そうになる。さっきまでの気持ちがどんどんしぼんでいく。初めて二人で飲みに来た気持ちの高揚はあっという間に沈んでいった。どうすんだよ、この空気。で、振られた俺が、俺より落ち込むこの隣の子を慰めなきゃなんねえの?
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