おともだち

多江

 人生で初めてセフレができた帰り道。

 宮沢くんは私の最寄り駅で降りて、家まで送ってくれた。これは、送りオオカミってやつかなと覚悟を決めたのに、宮沢くんは
「じゃあ、また」
 とあっさり帰って行った。

 しばらくして
『家わかったから、今度からは気が乗ったら仁科さんから誘って。会いに行くよ』というメッセージが届いた。

 ついキュンとしてしまって、緩んだ顔を慌てて引き締めた。違う違う、セフレにキュンとしてどうするの。宮沢くんは、セフレとか作らないタイプだって自分で言ったのに、何で引き受けてくれたんだろう。

 考えてみれば、私ごときが自分の都合であの麗しい宮沢くんを呼び出してもいいのだろうか。気を使いたくなくてつくったセフレに気を使わざるを得ない状況なのは我ながらバカじゃないのかと思う。

 ああああ、恥ずかしい。勘違いで向こうも同じセフレを欲しがってると思うなんて。思い込みとは恐ろしいものだ。それからハッとする。宮沢くんって、私と付き合いたかったんだよねそれって、私の事が好きって……こと?

 ようやく事態を把握するとこれでよかったのかと不安が押し寄せた。彼はこれでよかったのだろうか。彼には何のメリットがあるのだろう。私は彼を振ったことになるのだろうか。

 好きな人に振られ、セフレならいいよと提案される。
「ちょっと、これ……私最悪じゃない? 」
 私は急に自分のしたことが申し訳なくなってきた。

 自分の気持ちや、都合ばかり考えて来たけど(そういう相手が欲しかったんだけど)会社の人をセフレにするってかなり……。まあ、部署も階数も違うと滅多に会わないしいっか。なんて気軽に考えてたのが信じられないくらい恥ずかしくなってくる。

 やっぱり、この話はなかったことにしてもらおう。
 そう思って私は早々に
 『今週どこかで会える? 』
 宮沢くんに連絡を取ったのだった。
 
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