おともだち
 外で待ち合わせしていたのに、エレベーターで鉢合わせした。

 セフレになってから、案外会社で会うのだと思い知った。……結構気まずくなる距離じゃないか、部署が違う、広い会社だって。契約解除後気まずくなるのは必至。

 滑らかに動けなくなる私に反して、宮沢くんは以前と変わりなく気軽に微笑んだ。
「ああ、ちょうど良かったね。まずは何か食べる? 」
「あ、うううん」
「どっち、それ」
「食べます」
「うん。何食べたい? 」
「えっと」
「あ、そうだ。店なんだけど、会社の人に二人でいるのを見られてもいい? それとも秘密にする? それによって、会社の近くは避けなきゃなんないし」

 こ、この人は何を、言ってるのだろうか。

「秘密! に決まってるでしょう!? 言えるわけないじゃない、こんな関係! 」
 宮沢くんはなんてことないような顔で、そう?と肩をすくめた。

「じゃあ、家で食べる? 仁科さんち行っていいんだっけ。俺んちでもいいよ」
「……わ、たしの家で」
「そ? じゃあ、何か買って帰ろうか」

 結局、簡単なサラダの材料とお酒を買って、あとは宅配のピザを頼むことにした。

 ……家って、やっぱりそうだよね。と決まらない覚悟を何度も決めようとして、息を吐く。決めたのは私、誘いを承諾したのは宮沢くん。なのに、私の方は居心地が悪く、彼は私の最寄り駅のスーパーに寄ると「あ、こんなんあるんだ、このスーパー」なんて言いながら楽しそうに食材を選んでいた。

 男と女じゃセックスに対する心持ちというか、越えるハードルが違うんだろうな……。

「ん」
 宮沢くんが、私の持つ袋をさっと引き取る。
「ありがと」
「ん」
 反対側の手に荷物を持ち替えるともう一度手を差し出された。
「荷物、1個だけだよ」
 首を傾げると
「はは。うん」
 宮沢くんは、私の手をとった。驚く私に、にっこり笑うと指を絡める。絡めた指で私の手を撫でるように手遊びすると、動揺する私を確認し、またにっこりと笑った。

 彼の肩が、おかしそうに揺れていた。

 なんの、これからすることを思ったら、これくらい。

 私は反対の手を熱くなった頬にそっと当てた。
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