おともだち
「どうぞ」

 玄関を開けると、彼は「お邪魔します」と中に入った。
 一人暮らしのキッチンはそう広くはないけど、十分だと思っていた。だけど、今日は随分狭く感じる。

 家に着くと宮沢くんはキッチンに入っていいか確認し、私に並んで今に至る。少し動けば肩がぶつかる距離で野菜を洗う。一人でもすぐ終わる作業を並んでする意味……。

「私がやるよ」って言ったのに、宮沢くんは「じゃあ、手伝って」って言ったので並んで彼が洗った野菜を受け取って、むしろ効率が悪い。

 ……肩が当たっても、身体が触れても彼は動揺することも、気にする素振りすらなかった。
 幸い、サラダはすぐに出来て、間もなくピザも届いた。

 小さなダイニングテーブルがあるけど、映画でも観ながら食べようかとソファの方へと移動した。小さなローテーブルと小さなフロアソファは密着度が高いうえに、すぐに()()()()()()が出来そうなシチュエーションだ。恋人の距離感はそれなりに経験があるけど、セフレの距離感がわからない。

「こういう低いソファ、いいね。このまま寝ちゃったりしない? 」
「うん。何回かここで朝を迎えた」
「はは、だよな」

 体がくっつく距離で目を見て話そうと思えば顔が近くて、ちょっと急にこの距離は厳しくて、ピザを食べるふりしてソファに預けていた上半身をテーブルの方へ浮かせた。

「グラス、出していい? 俺が洗うし」
「ああ、いいよ、いいよ。使って」

 缶のお酒をグラスに注ぐと、私の分も注いでくれた。

「缶のまま飲まないんだ? 」
「いや、これ初めて飲むから色見たいなって思ったんだけど、透明だった」
 微妙な顔で笑うから、私もついつられてしまう。
「ほんとだ」
 透明なグラス越しに宮沢くんの少し開いた唇が妙に生々しく感じられて、顔が熱くなる。
「飲む? さっぱりしててうまい」
「あ、うん」
 欲しくて見てたんじゃないけど、グラスを受け取った。じっと見つめられながら飲んだスピリッツは爽やかな味がした。
< 25 / 40 >

この作品をシェア

pagetop