おともだち
 再び狭いソファに宮沢くんが腰を下ろす。

 私はまた体を固まらせた。くっついた部分がピリピリする。この距離だと息をするのも恥ずかしい。お酒に逃げようかと上半身を浮かそうとした時だった。伸ばした手を制止され、代わりに宮沢くんが私のグラスを取ってくれた。

 ……何?
「酒、取る時言って」
 宮沢くんは私が飲み終わるのを待ってグラスをテーブルに戻した。
「うん。ありが……キャッ」
 不意に肩を引き寄せられ、驚いて体を宮沢くんの方に向けてしまった。私は宮沢くんの鎖骨あたりに顔を打ち付けたまま動けずにいた。

「ちゃんと、手洗ったから」
 少し上から宮沢くんの声が降って来て私はこくこくと頷くので精一杯だった。
 抱き寄せられて、右腕で腕枕されたようになる。さっき手を洗ってたのそれだったんだー……と気を逸らしたところで鼓動が落ち着くわけでもない。
 
「で、さっきの続きだけど」
「う、うん」
「その後の恋愛を教えて」
「えええっと、大学の時、だね」

 近い近い、近い近い。思考がまともに働かない。

 途切れ途切れ話すのが、宮沢くんには傷が深いと思われたのか心配そうな視線を向けられ、私は心の内を悟られるのが恥ずかしくてヘラっと笑った。宮沢くんが背中をさすってくれるのが妙に気持ちいい。

「恋人はいなかった、ってことか」
「うん、そう。だから完全な片思いで、終わったの」
「好きな人はいたってこと」
「そう。いいなあから始まって、少し話すようになるともっといいなぁって思うようになって気づけば彼を探して、目で追って……」
「告白……しなかったんだ? 」
「そう。そのうち彼女が出来ちゃって。一回だけ二人で遊びに行ったことがある、だけで終わっちゃった」
「恋はその一つだけ? 」
「うん、そう。引きずっちゃって」

 結局、大学生の時に好きだったのはあの加賀美くんだけだったな。単に縁が無かっただけだろうけど。
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