おともだち
――翌朝。
出勤するなり無理に総務部に行く仕事を見つけ、階上へ向かった。辰巳主任は思った通りの席にいて、やはりあの人かと思う。長居出来る用事もなく、しっかりと顔も確認出来ない。
仕方なく帰ろうとするとタイミングよく辰巳主任が席を立ち、こちらに歩いて来た。近くで顔を見れるチャンスだと足を止めてしまったせいで、うっかり話しかけられてしまう。しかも、ちゃんと俺を認識しているあたり、さすが……としか。
「宮沢君、何か用事? 」
「あ、いえ。すみませんどこかへ行かれるところですか? 」
「ん、就業前にトイレ」
辰巳主任はにこり笑う。人の良さそうな笑顔は緊張をほぐし、安心感を与える。何と言うか、柔らかい雰囲気をまとった人で、話しやすい。あと、思ったより若い。若いな。十分対象になる若さだ。それに、少しばかり心臓が嫌な鼓動を打つ。
「えっと、じゃあ僕も」
「宮沢君、何かあったんじゃないの? 」
「いえ、もう済みました」
「あ、そっか。こんな早くに来るくらいだから、急ぎだったんだね」
指摘されて、適当な理由が思いつかず、いえ、とか、まぁ、とか相槌を打ったが彼は気にする素振りはなかった。不意に彼の左手薬指の指輪が目に入った。
「……結婚、されてるんですね」
そのまま口に出してしまい、彼は驚いた様子だった。それはそうだ、言葉に『意外に思っている』という感情が乗ってしまったのだから。俺が意外に思ったのは仁科さんが名前を挙げた男性が結婚していたことで、彼が結婚などできなさそうなのにと思ったわけではけしてない。
「はは、僕が結婚しているのは意外かな」
「いえ、そう意味ではなく、お若いのに、と思っただけです」
「え、そう? もう40近いよ」
「あ、そう、すみません」
うまくごまかせずに、知らずに顔が熱くなった。
「まぁ、若く見えるのはうれしいかな」
「結婚、されてどのくらいですか? 」
何だろう。ほぼ初対面に近い関係なのに、こんなことも聞けてしまう。彼独特の親しみやすさについ、話してみたくなった。
……トイレで、だけど。
出勤するなり無理に総務部に行く仕事を見つけ、階上へ向かった。辰巳主任は思った通りの席にいて、やはりあの人かと思う。長居出来る用事もなく、しっかりと顔も確認出来ない。
仕方なく帰ろうとするとタイミングよく辰巳主任が席を立ち、こちらに歩いて来た。近くで顔を見れるチャンスだと足を止めてしまったせいで、うっかり話しかけられてしまう。しかも、ちゃんと俺を認識しているあたり、さすが……としか。
「宮沢君、何か用事? 」
「あ、いえ。すみませんどこかへ行かれるところですか? 」
「ん、就業前にトイレ」
辰巳主任はにこり笑う。人の良さそうな笑顔は緊張をほぐし、安心感を与える。何と言うか、柔らかい雰囲気をまとった人で、話しやすい。あと、思ったより若い。若いな。十分対象になる若さだ。それに、少しばかり心臓が嫌な鼓動を打つ。
「えっと、じゃあ僕も」
「宮沢君、何かあったんじゃないの? 」
「いえ、もう済みました」
「あ、そっか。こんな早くに来るくらいだから、急ぎだったんだね」
指摘されて、適当な理由が思いつかず、いえ、とか、まぁ、とか相槌を打ったが彼は気にする素振りはなかった。不意に彼の左手薬指の指輪が目に入った。
「……結婚、されてるんですね」
そのまま口に出してしまい、彼は驚いた様子だった。それはそうだ、言葉に『意外に思っている』という感情が乗ってしまったのだから。俺が意外に思ったのは仁科さんが名前を挙げた男性が結婚していたことで、彼が結婚などできなさそうなのにと思ったわけではけしてない。
「はは、僕が結婚しているのは意外かな」
「いえ、そう意味ではなく、お若いのに、と思っただけです」
「え、そう? もう40近いよ」
「あ、そう、すみません」
うまくごまかせずに、知らずに顔が熱くなった。
「まぁ、若く見えるのはうれしいかな」
「結婚、されてどのくらいですか? 」
何だろう。ほぼ初対面に近い関係なのに、こんなことも聞けてしまう。彼独特の親しみやすさについ、話してみたくなった。
……トイレで、だけど。