初めての愛をやり直そう
第三章 再会、失意
上司で所長の和泉に呼ばれ、謝られてから数時間が経っていた。
申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、本当のことを言う必要もなく、言えば知佳を傷つけるだけなのでただ頭を下げるだけだった。
その日はもう仕事をする気になれず、早々とオフィスを後にした。
五時の終業時間。事務の女性達が帰る時間に自分が退社するなんてほとんどないことだ。いつも時間に追われ、必死だから。
向かったのは近くのカフェ。
セルフ系のカフェが人気を博している昨今だが、ウエイトレスが注文を聞き、運んでくれる従来のカフェもじわじわと巻き返しを始めている。ここもその一つだった。
カフェ――その言葉は拓斗の心を揺さぶる。
(あの時も、茜を追いかけてメイドカフェに入ったんだ)
初めて足を踏み入れるカフェ。何度か見かけたが、店内に入る勇気がなかった。緊張する。彼女を見つけてもいつもガラス越しだ。だから茜かどうか確信が持てない。本人だったらなんと言えばいい?
元気だった?
今、どうしてるの?
連絡を入れていた受験期間、無事に合格して入学した大学。その後、完全に連絡しなくなったのは自分のほうだ。
メールの返事をしなきゃ、たまには電話を、会って食事でも……そう思うばかりで、なにもできなかった。
医学生として学びながら、空いた時間で司法試験の勉強をするというのは至難の業だった。
在学中での合格は無理だったが、一年で為し得たことは確かに誇りだ。その代わり、茜とは完全に切れてしまった。
拓斗は六年間も大学生をし、さらに一年受験浪人をしているが、茜は別の大学の文学部に進んだので、四年後には就職しているはずだ。カフェでウエイトレスをしているとは考えにくいのだが。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
何人かの女性の声が響く。近づいてきた店員に顔を向けると、彼女の顔が明らかに、え? という困惑に変わった。
拓斗の中でなにかが大きく膨らんだ。
やっぱり。
その言葉が頭の中をグルグルと回る。
「あ、あの」
「一人です」
「お好きなお席にどうぞ」
「奥の席でもかまいませんか?」
拓斗は一番奥の六人掛けの席を指差した。
「えぇ、けっこうです。どうぞ」
拓斗は足早に奥の席へと向かった。そこで腰を下ろし、アイスコーヒーを注文した。
申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、本当のことを言う必要もなく、言えば知佳を傷つけるだけなのでただ頭を下げるだけだった。
その日はもう仕事をする気になれず、早々とオフィスを後にした。
五時の終業時間。事務の女性達が帰る時間に自分が退社するなんてほとんどないことだ。いつも時間に追われ、必死だから。
向かったのは近くのカフェ。
セルフ系のカフェが人気を博している昨今だが、ウエイトレスが注文を聞き、運んでくれる従来のカフェもじわじわと巻き返しを始めている。ここもその一つだった。
カフェ――その言葉は拓斗の心を揺さぶる。
(あの時も、茜を追いかけてメイドカフェに入ったんだ)
初めて足を踏み入れるカフェ。何度か見かけたが、店内に入る勇気がなかった。緊張する。彼女を見つけてもいつもガラス越しだ。だから茜かどうか確信が持てない。本人だったらなんと言えばいい?
元気だった?
今、どうしてるの?
連絡を入れていた受験期間、無事に合格して入学した大学。その後、完全に連絡しなくなったのは自分のほうだ。
メールの返事をしなきゃ、たまには電話を、会って食事でも……そう思うばかりで、なにもできなかった。
医学生として学びながら、空いた時間で司法試験の勉強をするというのは至難の業だった。
在学中での合格は無理だったが、一年で為し得たことは確かに誇りだ。その代わり、茜とは完全に切れてしまった。
拓斗は六年間も大学生をし、さらに一年受験浪人をしているが、茜は別の大学の文学部に進んだので、四年後には就職しているはずだ。カフェでウエイトレスをしているとは考えにくいのだが。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
何人かの女性の声が響く。近づいてきた店員に顔を向けると、彼女の顔が明らかに、え? という困惑に変わった。
拓斗の中でなにかが大きく膨らんだ。
やっぱり。
その言葉が頭の中をグルグルと回る。
「あ、あの」
「一人です」
「お好きなお席にどうぞ」
「奥の席でもかまいませんか?」
拓斗は一番奥の六人掛けの席を指差した。
「えぇ、けっこうです。どうぞ」
拓斗は足早に奥の席へと向かった。そこで腰を下ろし、アイスコーヒーを注文した。