初めての愛をやり直そう
(なんだよ、あの目。あーいう目をして頼み込んだら、男はみんな言うこと聞くと思ってるのかよ。最悪だな。その点、榛原は素直だし、あんな目で男を見たりしないから)

 胸の内で呟き、茜の顔を思い浮かべる。同時に思わず息をのみ、頬を朱色に染めた。

(バカ。なにを考えてるんだ、俺。俺達は確かに一歩進んだ関係だけど、まだなにもないし)

 そう思ってハッとなった。

(まだなにもって、なんだよ!)

 グルグル考えながら教室を後にする。そして目的のファミレスに向かった。

「あ、島津君! こっち」

 奥のテーブルで茜が立ち上がりつつ手を振っている。そんな姿を見て、拓斗はまたしても顔を朱色に染めた。

 茜の無邪気な笑顔のほうが断然かわいい――拓斗は素直にそう思った。

「ごめん、遅くなった。教室で神野に呼び止められた」
「え?」

 途端に茜の顔が曇る。クルクル変わる表情もかわいい。拓斗は笑みを浮かべてソファに座ると、ドリンクバーを注文した。

「明日の数学の宿題を写させてくれってさ」
「宿題? 数学の? それって」
「あぁ。たぶん、ソッコー呼び出されると思うよ」
「学年首席だもんね。けどさ、いいの? 協力したほうも注意されるよ?」
「この学校からT大に行けそうな生徒なんていないに等しい。俺が行ったら大喜びのはずだ。だから断りきれませんでした、すみませんって謝ったら許してくれると思う」
「……そーいうもの?」
「たぶんね。そんなことより、明後日の映画」

 その瞬間、茜が照れ臭そうに笑った。拓斗には作っていない素直な表情や仕草がとても可愛く見えた。

「十時だから」
「うん、わかってる。すごく楽しみにしてるの。それでね、島津君、私服姿、笑わないでね」
「え? 笑われるぐらいヘンなの!?」
「そーいう意味じゃないよっ」
「あはははは。大丈夫だよ。だけどメイド以外の服装希望」
「もう! 意地悪なんだから!」

 拓斗はやはり茜がかわいいと思った。

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