初めての愛をやり直そう
 翌日、神野が拓斗の机にやってきた。そして周囲の生徒に聞かせるような大きさの声で礼を述べた。

「いいけど、でも人の宿題を写しても神野にとっては良くないと思うよ」
「そんなことないよ。今度、お礼するね」
「いらない。それにきっと、俺に感謝なんかしなくなると思うから」
「どういう意味?」

 拓斗は意味深に微笑むと顔を背けた。神野のほうは半ば強引に話を打ち切られてムッとしたようだったが、なにも言わずに席についた。

(俺、あぁいうタイプ、好きじゃないから)

 こちらを見ている茜と目が合い、心の中でそう語る。伝わっているのか、茜が微かに頷いた。

 チャイムが鳴って数学の教師が入ってくる。最初に宿題を回収し、それから授業が始まった。

 神野はきちんと宿題を提出したことに対し、教師に対してしてやったりと思っているのか、ずいぶんご機嫌だった。

 意気揚々としている神野が顔色を変えたのは、ホームルームの時間だった。

「島津君と神野さんはあとで職員室に来るように。小和田《おわだ》先生が二人にお話があるそうだから」

 神野は顔を曇らせ、拓斗はやはりと言いたげに小さく吐息をついた。

 二人揃って職員室に向かうと、数学の小和田が怖い顔をして迎え、宿題のプリントを神野に突きつけた。

「どういうことか、いちいち言わなくてもわかっているだろ? 出せばいいってものじゃない。例え全問不正解でも、自分でやってこそ意味があるんだ」
「え、っと~、先生、意味がよく」
「お前が島津の宿題を丸写ししたってことはわかっているんだ」
「でもぉ~」

 小和田は拓斗に顔を向けた。

「島津」
「すみませんでした。神野さんが困っていたので協力しました」
「ちょ、ちょっと、島津君!」
「だからすぐにバレるって言っただろ?」
「もしかして神野、お前、島津が学年首席で、特に数学が強いこと、知らなかったのか?」

 神野の顔が強張った。そしてそのまま拓斗に向ける。

「首席?」
「学年でも下位を争っているお前が、完璧な答えで全問正解するわけがないだろ。頼んだ相手が悪かったな。とにかく、人の宿題を写しては意味がない。二度とするな」
「……すみません」
「島津も、こうなることはわかっていたはずだ」
「気をつけます」

 それから間もなく二人は解放された。

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