初めての愛をやり直そう
 明日は茜とデートだ。早く帰って今夜中に課題を終わらせてしまおうと考えている拓斗は、早足で廊下を歩いた。それに必死で追いかけてくるのが神野だった。

「ちょっと待ってよ」
「…………」
「ねぇ! ねぇってばっ、島津君!」

 神野は拓斗の腕を取った。そのまま引っ張り、胸の前で両腕を絡ませる。高校生とは思えない豊満なバストに腕が当たり、拓斗は驚いて飛び上がりそうになった。が、なにも言わず必死で平静を装った。

「なんだよ?」
「みんなから賢いって聞いてお願いしたんだけど、島津君って首席だったんだ?」
「え? あぁ、そうだよ。事情で本命の学校、受験できなかったから」
「本命?」

 神野は質問の返事として拓斗の口から出た学校名に目を見開いた。神野でさえ知っている都内でも指折り有名な進学校の名前だったのだ。

「だからこの学校じゃ、そんなに無理しなくても首席なわけ。一緒に叱られてやったんだから、もういいだろ?」
「あのさー、家庭教師やってもらえない?」
「はぁ?」

 いきなりの爆弾発言。拓斗は目を剥いた。

「首席の人に勉強教えてもらったらさぁ、私の成績も上がると思うのよねぇ。それに私、ほら、仕事してるでしょ? 塾とか予備校とか通えないのよ、不規則で」
「……そっちのスケジュールに合わせて動けっての?」
「空きの日をこまめに連絡入れるからさぁ。お願い」

 勝手な言い分に呆れた。媚びたような目を向ける様子も同様だ。

 拓斗は冷たく突き放した。

「お断り。こっちだって忙しい。他のヤツに頼めよ。喜んで引き受けるヤツ、いっぱいいるだろ?」
「えー! お願いぃ」

 その声はどこから出しているんだ? と聞きたくなるような猫なで声だ。

 拓斗は呆れつつ、もう一度否定してから立ち去った。

(バカバカしい。時間の無駄だった。明日の課題分もやり終えようと思ってたのに。早く帰って勉強しなきゃ)
(明日、榛原と初デートだから!)

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