初めての愛をやり直そう
「島津君?」

「親父、海外も含めてとにかく出張ばかりでさ、母さんと二人でいることが多かった。その母さんには持病があって、小さい時から家事を手伝ってきた。小学校に入った辺りから母さんの具合がどんどん悪くなって、中学では入退院を繰り返すようになった。だから俺、ずっと医者になろうと思っていたんだ」

「……島津君、弁護士目指してたんじゃないの?」

「そうだよ。母さんに付き添って病院に通っている間、何度も何度も先生達やスタッフの人達が患者やその家族に責められている姿を見たんだ。無茶を言う患者や家族って、想像以上に多いんだ。それを見て、病気の人を治すのも立派な仕事だけど、そういう頑張ってる人達を守るための職業ってのもいいなぁって思ったんだ」

「……そうなんだ」

 拓斗はうっすら笑った。

「これは余談で、言いたいことはここから。そういうわけで、ずっと家事とか勉強とかばかりだったから、女の子を好きになるってどういうことかよくわからなかった」

「…………」

「神野を見てもなにも感じないし、むしろ不快なぐらい。だけど榛原は違う。その、かわいい」
「え!」
「かわいいし、愛しいと思う。こんな気持ち、初めてだよ。これが好きって気持ちなのかなって思う。女の子に触れたいって思ったこともなかったのに」

 見つめる拓斗。見つめ返す茜。

 しばらく無言で互いを見つめあった。

「茜って呼んでいい?」
「…………」
「俺も拓斗って呼んでくれたらいいから」

 目を大きく開き、じっと拓斗を見つめる茜。そんな茜にそっと顔を近づける。

「キスしていい?」
「わ、私、キス、初めてなの」
「俺も」
「島津君」
「拓斗って呼んでほしいんだけど」
「拓斗君」
「茜、好きだよ」
「私も! 私もよっ。拓斗君、お願い、キスしてっ」

 見つめ合い、微笑み合う。それからお互いの両腕をお互いの背に回し、そっと唇を重ね、初めてのキスを交わした。



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