初めての愛をやり直そう
 神野に見られていたこと、自分達の関係がバレかけていること、そして。

(神野さんは、拓斗君のこと、もしかして、もしかして、好きなの!?)

 それは茜にとって、最大の不安事項だった。

「あの」
「勉強、教えてもらってるって感じだった。私さ、断られたの、島津君に。それって榛原さんの勉強見てるから?」
「…………」
「あんなふうにフラれたの、初めて」

 茜は膝の上で握っている手に力を込めた。

「私の周りにいる男の子ってさ、顔が目的だったり、体目当てだったりするのよね。人気者オトして良い顔したいとか。サイテーなのが多いの。島津君って、そーいうの気にしないみたいね」
「…………」
「いいなぁって思うのよ、そーいう人」
「あ、あの」
「つきあってるんだったらさぁ、横取りって申し訳ないと思うけど、そーじゃないなら悪いなぁとか思う必要ないでしょ?」

 茜は息をのみつつ凍りついた。

 神野が拓斗を横取りできる前提で話をしていることに非常な驚きを感じた。そして、いかに見下されているのかも。

 膝の上で握られている手にますます力がこもった。

「榛原さんはなにもしなくていいわよ。別れるとか、好きじゃなくなったとか、そーいうことって言うのも面倒だもんね。黙ってムシしたらいいことだから。あ、それでこっちがモデルスクールの入学届。この名刺は社長のだけど、最初は代表にかけてね。大丈夫、すぐにつないでもらえるように言っておくから」

「……あの」
「つきあってみてつまんないオトコだったらまた報告する。その時は家庭教師、再開してもいいんじゃない?」

 クスクス笑う神野の顔を茜は呆然と見つめた。

 自ら動く必要などないほどモテる神野が、拓斗に言い寄ろうとしている。そのことに茜は言葉を失い、泣きそうになった。

 とても太刀打ちできる相手じゃない、と。

「オーディションは随時してるからさ。榛原さん、頑張ってね」
「…………」

 神野は精算書を持ってさっさとカフェを出ていってしまった。

 対して茜は金縛りにあったように固まり、その場から動けなかった。


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