初めての愛をやり直そう
諸々相談したい父は商社マンでとにかく留守が多かった。
なかなかじっくり顔を合わせて話をする時間が持てなかった。だから父は担任に相談し、代わりに対応してもらえるよう頼んでいたのだ。
(でも、俺だって子どもじゃないんだから、自分のことぐらい自分で決められるよ)
そんなことを考えながら駅に行くと、茜の姿を見つけた。
時計を何度も見ながら、慌てたような顔で電車を待っている。そんな様子が拓斗の興味を引いた。
彼女はどこにでもいるごく普通の女の子だ。取り立てて美人でもなければ、男ウケするような体格でもない。可もなく不可もなく、本当にごく普通だった。
(どこへ行くんだろう)
電車に乗り、茜の様子を観察する。やはり何度も時計を確認している。かなり焦っているのがわかった。やがて電車を降りた。
(アキバ?)
ゲームをしない拓斗には縁のない街だ。
早歩きの茜を追いかけると、彼女はビルの勝手口に消えた。拓斗は一瞬迷ったが、同じようにその扉を開けてさらに追いかけた。
(え?)
茜が消えた扉にはカフェ名とそのカフェを運営する会社名が掲げられていた。
(榛原、バイトしてるんだ)
カフェの名前を確認し、今度は外に出た。そしてまた驚いた。
(メイドカフェ!)
唖然とする。とてもそんな世界に縁があるようなタイプではないと思っていた拓斗にとって、それは衝撃的な出来事だった。
拓斗はしばし悩んだが、やがて意を決して店に向かって歩き出した。
「――し」
茜は「島津君」と言いかけ、口を噤んだ。目を大きく見開き、そのまま硬直している。二人は互いを見つめ合い、固まっていた。
メイドの衣装はかなり派手だった。バストを強調するような制服は、レースとフリルがふんだんについている。ピンクのブラウスもかわいいというより艶っぽい。単純にかわいさだけを狙った店ではないようだ。
拓斗は茜の体型がけっこう男ウケするものだと悟り、ますます言葉を失った。
なんとなく下半身が疼く気がするものの、意識がそちらにいかないよう必死で心がけた。
「ミューちゃん」
他の店員が茜の腕を掴んで囁いた。
「あ、あっ、ご主人様、お帰りなさいませ! ミューがお世話させていただきます。ご主人様、お食事になさいますか? 飲み物になさいますか?」
ニッコリと微笑むが、顔は完全に引き攣っている。
「飲み物……」
「飲み物でございますね。では、こちらからお選びくださいませ、ご主人様」
茜が差しだすメニューを受け取るものの、目と意識は茜に釘づけだ。
茜の唇が声を出さずに「なににするの?」と動いた。拓斗はハッと我に返り、「アイスコーヒーを」と返事をした。
「アイスコーヒーでございますね、ご主人様。かしこまりました。すぐにお持ちいたします。しばらくお待ちくださいませ」
茜はそう言って頭を下げると、逃げるように奥へと消えていった。
なかなかじっくり顔を合わせて話をする時間が持てなかった。だから父は担任に相談し、代わりに対応してもらえるよう頼んでいたのだ。
(でも、俺だって子どもじゃないんだから、自分のことぐらい自分で決められるよ)
そんなことを考えながら駅に行くと、茜の姿を見つけた。
時計を何度も見ながら、慌てたような顔で電車を待っている。そんな様子が拓斗の興味を引いた。
彼女はどこにでもいるごく普通の女の子だ。取り立てて美人でもなければ、男ウケするような体格でもない。可もなく不可もなく、本当にごく普通だった。
(どこへ行くんだろう)
電車に乗り、茜の様子を観察する。やはり何度も時計を確認している。かなり焦っているのがわかった。やがて電車を降りた。
(アキバ?)
ゲームをしない拓斗には縁のない街だ。
早歩きの茜を追いかけると、彼女はビルの勝手口に消えた。拓斗は一瞬迷ったが、同じようにその扉を開けてさらに追いかけた。
(え?)
茜が消えた扉にはカフェ名とそのカフェを運営する会社名が掲げられていた。
(榛原、バイトしてるんだ)
カフェの名前を確認し、今度は外に出た。そしてまた驚いた。
(メイドカフェ!)
唖然とする。とてもそんな世界に縁があるようなタイプではないと思っていた拓斗にとって、それは衝撃的な出来事だった。
拓斗はしばし悩んだが、やがて意を決して店に向かって歩き出した。
「――し」
茜は「島津君」と言いかけ、口を噤んだ。目を大きく見開き、そのまま硬直している。二人は互いを見つめ合い、固まっていた。
メイドの衣装はかなり派手だった。バストを強調するような制服は、レースとフリルがふんだんについている。ピンクのブラウスもかわいいというより艶っぽい。単純にかわいさだけを狙った店ではないようだ。
拓斗は茜の体型がけっこう男ウケするものだと悟り、ますます言葉を失った。
なんとなく下半身が疼く気がするものの、意識がそちらにいかないよう必死で心がけた。
「ミューちゃん」
他の店員が茜の腕を掴んで囁いた。
「あ、あっ、ご主人様、お帰りなさいませ! ミューがお世話させていただきます。ご主人様、お食事になさいますか? 飲み物になさいますか?」
ニッコリと微笑むが、顔は完全に引き攣っている。
「飲み物……」
「飲み物でございますね。では、こちらからお選びくださいませ、ご主人様」
茜が差しだすメニューを受け取るものの、目と意識は茜に釘づけだ。
茜の唇が声を出さずに「なににするの?」と動いた。拓斗はハッと我に返り、「アイスコーヒーを」と返事をした。
「アイスコーヒーでございますね、ご主人様。かしこまりました。すぐにお持ちいたします。しばらくお待ちくださいませ」
茜はそう言って頭を下げると、逃げるように奥へと消えていった。