初めての愛をやり直そう
 二週間が経った。


 だが、今でもあの時のインパクトは薄れず、勉強が手につかない。

 気がついたらメイド姿の茜を想像している。

(ヤバい!)

 その繰り返しに本気で焦った。

 いそいそと帰っていく茜を追いかける。

 秋葉原には行かない様子だとそのまま家に帰り、そうでなければ追いかけ、カフェに入った。

 自分でもストーカーだなと思い、苦笑するばかりだ。

「お帰りなさいませ、ご主人様」
「アイスコーヒーお願いします」
「アイスコーヒーでございますね? かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

 こんなやり取りを繰り返す。

 茜が微笑みかけると、拓斗の心臓はドキドキと早鐘を打った。と同時に、別の客に向かうと、たまらなくムカついた。自分の宝を取られたような感覚だった。

 その時、小さな事件が起こった。

 客の一人が茜の手を握ったのだ。茜は明らかに顔を強張らせ、それでも丁寧に放すよう促している。だが客は聞かなかった。

 そんな様子にキレかけた拓斗が思わず立ち上がろうとした時、事態が変わった。

 奥から中年の男が現れ、客に注意を促したのだ。なにを話しているのかはわからない。何度か会話を交わすと、客はおとなしく帰っていった。

(よかった)

 ホッと安堵する。しかしながら、すぐに言い様のない苛立ちが湧いてくる。

(こんなトコであんな愛嬌を振りまいたら、勘違いするヤツだっているだろう)

 茜は青い顔をしたまま奥へ下がっていった。

 拓斗のほうは精算を済ませて店を出た。

 そのまま歩道のガードレールに凭れて茜が出てくるのを待つ。

 なぜさっさと帰らないんだろう?

 自分に向けてそう思いながらも動けずにいる。

 二、三十分ぐらい経つと、勝手口から茜が出てきた。拓斗は思わず駆け寄った。

「島津君」
「送ってく」
「え?」

 茜の驚く顔を目の当たりにし、拓斗は苦いものを噛みしめるような気持ちを抱きながら、もう一度「送っていく」と言った。

「まださっきのヤツがいたらいけないから。俺はクラスメートだから、さっきのヤツよりかは安心だろ?」
「……うん」

 二人並んで歩きだす。

 何事もなく駅に辿り着き、電車に乗った。しばらく無言で過ごしていたが、茜の降りる駅に到着すると、顔を見合わせた。

「家まで送るよ」
「でも」
「今日だけだから」

 茜は拓斗の顔を見上げた。

< 9 / 45 >

この作品をシェア

pagetop