モーニングコーヒー
好きなのは
・・・・・
桜の盛りも終えつつある春の日。
自分の小さな気持ちを大事に育てていた私に、その知らせは突然舞い込んできた。
大ニュースだと興奮気味の同僚に急かされて、数分前に届いた全社員に向けたメールを開封してみると、辞令の文字が目に飛び込んでくる。
「異動?」
「そう、異動の人もいるけれど……この辺りは昇進だね。ねえここ見て! 加賀見さん、課長になるらしいよ」
ほら、と指し示された先。ディスプレイに、加賀見係長の名前が見える。
所属はそのまま第一課だけれど、今度は課全体を束ねる役割になることが役職名だけでよく分かった。
ーー課長。加賀見係長が、課長。
(嬉しい……! 嬉し過ぎる)
加賀見係長の地道な働きが認められていたことが嬉しくて。私は、心の中で盛大にガッツポーズをした。
そうして、この人事異動がきっかけで、私の小さな、些細な日々が変わった。
加賀見係長がその手腕を買われ課長へと昇進したことにより、彼の生活リズムが一変したからだ。
現場のリーダーだった彼が、本格的な管理職へと移行していく。
つまり、社内にいる時間が大幅に増えるということ。
これまで直接行っていた後輩のフォローを新しい現場のリーダーへ任せ、今度は机上で、もっと広い視野を持って全体を見通す〝目〟となる。育ててきた後輩たちが現場仕事へ専念出来るように、障害となるものを取り払う役目だ。
上がってきた報告を集約して、新たな指示を出したり、働きやすくするために他部署、果ては他社へ掛け合ったりと、今まで少なかったやりとりも倍増しているようだ。
加賀見〝課長〟の多忙な最初の一週間が過ぎた頃、ようやくまともに会話をすることが出来た。これまでも定期的に行っていた各課長への作業報告のタイミングがやって来たのだ。第一課の新課長へは初めての報告となる。
「加賀見かかりちょ、じゃなかった、課長」
最初が肝心だ! と意気込んだのが災いしたのか、思いっきり呼び方を間違えてしまった。
「はあ。葉山にとって俺は、ずーっと係長のままなんだな。仕方ないよな、ペーペーだしな」
「ち、違います! つい! うっかり! 間違えました!」
わざとらしくため息を吐いているが、目が笑っている。冗談だ。
そんな砕けた態度でも、細められた目元に妙な色気を感じて緊張してしまい、動悸が激しくなる。
私は何とか平静を保っている振りをして、進捗の報告を始めた。
桜の盛りも終えつつある春の日。
自分の小さな気持ちを大事に育てていた私に、その知らせは突然舞い込んできた。
大ニュースだと興奮気味の同僚に急かされて、数分前に届いた全社員に向けたメールを開封してみると、辞令の文字が目に飛び込んでくる。
「異動?」
「そう、異動の人もいるけれど……この辺りは昇進だね。ねえここ見て! 加賀見さん、課長になるらしいよ」
ほら、と指し示された先。ディスプレイに、加賀見係長の名前が見える。
所属はそのまま第一課だけれど、今度は課全体を束ねる役割になることが役職名だけでよく分かった。
ーー課長。加賀見係長が、課長。
(嬉しい……! 嬉し過ぎる)
加賀見係長の地道な働きが認められていたことが嬉しくて。私は、心の中で盛大にガッツポーズをした。
そうして、この人事異動がきっかけで、私の小さな、些細な日々が変わった。
加賀見係長がその手腕を買われ課長へと昇進したことにより、彼の生活リズムが一変したからだ。
現場のリーダーだった彼が、本格的な管理職へと移行していく。
つまり、社内にいる時間が大幅に増えるということ。
これまで直接行っていた後輩のフォローを新しい現場のリーダーへ任せ、今度は机上で、もっと広い視野を持って全体を見通す〝目〟となる。育ててきた後輩たちが現場仕事へ専念出来るように、障害となるものを取り払う役目だ。
上がってきた報告を集約して、新たな指示を出したり、働きやすくするために他部署、果ては他社へ掛け合ったりと、今まで少なかったやりとりも倍増しているようだ。
加賀見〝課長〟の多忙な最初の一週間が過ぎた頃、ようやくまともに会話をすることが出来た。これまでも定期的に行っていた各課長への作業報告のタイミングがやって来たのだ。第一課の新課長へは初めての報告となる。
「加賀見かかりちょ、じゃなかった、課長」
最初が肝心だ! と意気込んだのが災いしたのか、思いっきり呼び方を間違えてしまった。
「はあ。葉山にとって俺は、ずーっと係長のままなんだな。仕方ないよな、ペーペーだしな」
「ち、違います! つい! うっかり! 間違えました!」
わざとらしくため息を吐いているが、目が笑っている。冗談だ。
そんな砕けた態度でも、細められた目元に妙な色気を感じて緊張してしまい、動悸が激しくなる。
私は何とか平静を保っている振りをして、進捗の報告を始めた。