地味婚

5.披露宴

『娘はやらん!』

 画面に映し出された父の顔と、大きな声に場内はしんと静まり返る。
 招待客も親族も、うちの両親も画面に釘づけだ。
 六月の湿気の多い暑さも、披露宴会場の中はとても快適だった。

「心臓に悪い映像だなあ」

 隣に座る虎太郎が苦笑いをする。

「……本当だよね」

 私もため息をつく。

 憂鬱な映像を流されても、白のタキシード姿の虎太郎を見れば、幸せな気分になってしまう。
 どこの王子様だよ。
 私はニヤニヤしながら虎太郎を眺めた。
 今日はプロのヘアメイクとウエディングドレスで、私の地味さも薄れているはずだ。多分。

「式を挙げるなら六月、ジューンブライドのほうがいいんじゃない」
 そんな提案をしたのは虎太郎で、彼の乙女チックさにも惚れた。

 だけど、今はみんな主役の私たちのことなど見ていない。
 だって、余興の自作ドラマに夢中なのだから。

 自作ドラマ。

 そう、それは、私が父に結婚を反対され、虎太郎と共に海に逃げ、それから父と和解。

 そんな月曜九時なんかに放送したら低視聴率必須な筋書きのドラマだった。

 これを企画したのは、どうやら伯母で、『どうせなら麗華ちゃんたちをドッキりにしかけて、その一部始終をカメラに撮って、披露宴で流してやろう』ともちかけたらしい。

 なぜ、私がそんなことを知っているのかと言うと。

 私と虎太郎が御前崎の海岸に逃げた時、自ら正体をバラすはめになった田中さん。
 彼があの時、すべて話してくれたからだ。

 なんでも、父も母も随分と前からこのアイデアを練っていたらしい。
 もう怒りを通り越して呆れた。
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