地味婚

2.結婚反対?!

「は?」

 私は思わず父を見る。

「え、いや、ちょっと待って。私、二十五歳よ? 早い結婚でもないし、おまけにこれと言って良いところもないし、おまけに地味なのに、虎太郎はこんなにイケメン。しかも誠実。同じ歳なのに出世コースは間違いないだろうとか誰にでも言われてる。スーツも似合う。そんな人がもらってくれる機会、もうないよ?」

越谷(こしがや)君は、愛知県民か?」

 父は私の話なぞ無視して、虎太郎にそう聞いた。

「いいえ、今は東京に住んでいます」

「生まれも育ちも東京か」

「いいえ、埼玉です」

「そうか。やはり娘はやれんな」

 父は、なぜか芝居がかったような口調でそう言い切る。

「え? お父さん、埼玉嫌いなの?」

「埼玉が嫌いということではなく、愛知県民以外のどこの馬の骨とも知らない男に娘を嫁がせるわけにはいかない」

「愛知県民なら、どこの馬の骨かわかるわけ?」

 私が反論すると、父はずずっとお茶をすすり、どら焼きをかじった。
 半分ほどどら焼きをかじったところで、父は再びお茶をすすり、それから言う。

「愛知県民以外に、お前を嫁がせるつもりはない、という意味だ」

「それは……僕が、この家の婿養子になれ、ということですか?」

「そうじゃない。愛知県民になってから出直して来い、ということだ」

「愛知に引っ越してくればいいのですね?」

 引き下がらない虎太郎、かっこいい。
 愛を感じるなあ。

「私のためなら婿養子でも愛知に引っ越してくるのも覚悟ってことだよ!」

「麗華、お前はもう少し黙っていられないのか」

 父に諭され、私は「あ、はい、すみません」と委縮する。

「そうだな。愛知に十年住んだら、愛知県民と言えるだろうな」
「はあ?! じゃあ、十年間は結婚するなってこと?!」

 私は思わず立ち上がる。

「だからさっきからお前は黙っていられないのか……。まあ、いい。とにかく俺は県外の男との結婚は許さん!」

 父はぴしゃりと言い放つと、リビングから出て行った。
 私は助けを求めるように母の顔を見ると、視線を明後日の方向へ逸らされる。
 それから母は口を開く。

「だって、言ったじゃない。麗華が東京に行く日の前日、お父さん『上京はいいが、県外の男は許さん』って」

「あれ、お父さんの冗談じゃないの?」

「そんな意味不明な冗談言わないわよ」

「じゃあ、お母さんも結婚は反対?」

 私の言葉に、母は「そうね」と頬に手を当ててため息をついた。
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