婚約破棄された崖っぷち令嬢ですが、王太子殿下から想定外に溺愛されています
1章 婚約破棄と執着王太子
「アルテミラ。言っておくが僕がお前と婚約したのも、風変わりな魔法が使えるという話だったからだ」
キラキラとシャンデリアが輝く賑やかなパーティー会場から離れた一角で、アルテミラ・フーデンタル伯爵令嬢の婚約者トマスが、見知らぬ令嬢の腰に手を置きながら鼻息荒く言い放った。
「え、トマス様……何をおっしゃっているのでしょうか?」
アルテミラは自分の婚約者が何を言っているのかわからなくて酷(ひど)く困惑する。
今、彼女がトマスへと聞いているのは彼の横にいる令嬢がどこの誰で、どういった関係なのかということだった。
(どうして魔法が関係あるの?)
「そんなことすらわからないのか。だからお前はダメなんだよ」
「えっと……何が……?」
気が動転して口ごもるアルテミラをトマスは横目で見ると底意地の悪い笑顔を浮かべた。
「はっ、聖女候補になれるかもしれないなんて噂を信じたのが馬鹿だったんだよ。そうでなきゃ、大した家柄でもない田舎の伯爵家で、魔力も少ないお前のようなあぶれ者と婚約などしなかったのに。父上の先物買いは失敗に終わったというわけだ」
その言いがかりのような言葉を聞きながら、アルテミラは痛む胃をぎゅっと押さえた。
冬の終わり日となる今日。宮殿で行われるパーティーに出席したものの、会場に来るなり起こった胃痛のため、開始の鐘が鳴るまでの間、少し休ませてもらおうと両親から離れ控え室のうちの一つへと来た。
アルテミラの今日の装いは、ふわりと裾の広がった淡い水色のドレス。ハーフアップに結い上げたピンクブラウンの髪には、彼女の瞳と同じ藍色の小花が飾られていた。
派手な飾りはないものの、大きく澄んだ瞳に小さな唇といった柔らかな印象の顔立ちによく似合っている。
(せっかく着飾ったのに、ついてないな……)
久しぶりのパーティー参加に緊張しているのか、 軽く胃をさすりながらアルテミラは控え室の扉を開けた。
しかし、そこでなんと自分の婚約者であるトマスと、とある令嬢が抱き合っている場面に遭遇してしまったのだ。
慌てて控え室に入り、彼らにどういうことかと理由を問えば、返ってきたのはアルテミラをただただ否定するだけの言葉だった。
どう考えても無茶苦茶な台詞に、アルテミラは呆然とする。そこへ追い打ちをかけるように甘えた声が聞こえた。
「まあ、そんなことをおっしゃったらアルテミラ様がお可哀想です。魔力がほんの少ししかないのはアルテミラ様のせいではございませんでしょう?」
「ああ、クレアージュは本当に優しいな。こんな愛想笑いもできないような者とは違って」
淡いブロンドを綺麗に撫でつけたトマスは、流行の大ぶりな刺繡が入ったジャケットの襟を見せつけるようにピッと引っ張る。切れ長の青い目がアルテミラの顔をとらえて見下すように細めた。
嘲るようにクスクスと笑う令嬢が、大きな髪飾りを揺らしてしなだれかかると、トマスはアルテミラには決して向けなかった顔を見せる。
アルテミラは、自分の前では常にしかめ面だった彼が口元を緩めて笑う姿に、頭を殴られたような気分になった。
おそらく彼は父親が決めたアルテミラとの婚約が気に入らなかったのだろう。
初対面の時に『お前は顔が地味なのだから少しは努力をしろよ』と笑って言われたことを思い出す。
「でも……それでも私はトマス様の婚約者です……」
なんとか自分の立場を思い出してもらえるように言葉を絞り出す。けれどもそれすらも馬鹿にされ笑われてしまった。
キラキラとシャンデリアが輝く賑やかなパーティー会場から離れた一角で、アルテミラ・フーデンタル伯爵令嬢の婚約者トマスが、見知らぬ令嬢の腰に手を置きながら鼻息荒く言い放った。
「え、トマス様……何をおっしゃっているのでしょうか?」
アルテミラは自分の婚約者が何を言っているのかわからなくて酷(ひど)く困惑する。
今、彼女がトマスへと聞いているのは彼の横にいる令嬢がどこの誰で、どういった関係なのかということだった。
(どうして魔法が関係あるの?)
「そんなことすらわからないのか。だからお前はダメなんだよ」
「えっと……何が……?」
気が動転して口ごもるアルテミラをトマスは横目で見ると底意地の悪い笑顔を浮かべた。
「はっ、聖女候補になれるかもしれないなんて噂を信じたのが馬鹿だったんだよ。そうでなきゃ、大した家柄でもない田舎の伯爵家で、魔力も少ないお前のようなあぶれ者と婚約などしなかったのに。父上の先物買いは失敗に終わったというわけだ」
その言いがかりのような言葉を聞きながら、アルテミラは痛む胃をぎゅっと押さえた。
冬の終わり日となる今日。宮殿で行われるパーティーに出席したものの、会場に来るなり起こった胃痛のため、開始の鐘が鳴るまでの間、少し休ませてもらおうと両親から離れ控え室のうちの一つへと来た。
アルテミラの今日の装いは、ふわりと裾の広がった淡い水色のドレス。ハーフアップに結い上げたピンクブラウンの髪には、彼女の瞳と同じ藍色の小花が飾られていた。
派手な飾りはないものの、大きく澄んだ瞳に小さな唇といった柔らかな印象の顔立ちによく似合っている。
(せっかく着飾ったのに、ついてないな……)
久しぶりのパーティー参加に緊張しているのか、 軽く胃をさすりながらアルテミラは控え室の扉を開けた。
しかし、そこでなんと自分の婚約者であるトマスと、とある令嬢が抱き合っている場面に遭遇してしまったのだ。
慌てて控え室に入り、彼らにどういうことかと理由を問えば、返ってきたのはアルテミラをただただ否定するだけの言葉だった。
どう考えても無茶苦茶な台詞に、アルテミラは呆然とする。そこへ追い打ちをかけるように甘えた声が聞こえた。
「まあ、そんなことをおっしゃったらアルテミラ様がお可哀想です。魔力がほんの少ししかないのはアルテミラ様のせいではございませんでしょう?」
「ああ、クレアージュは本当に優しいな。こんな愛想笑いもできないような者とは違って」
淡いブロンドを綺麗に撫でつけたトマスは、流行の大ぶりな刺繡が入ったジャケットの襟を見せつけるようにピッと引っ張る。切れ長の青い目がアルテミラの顔をとらえて見下すように細めた。
嘲るようにクスクスと笑う令嬢が、大きな髪飾りを揺らしてしなだれかかると、トマスはアルテミラには決して向けなかった顔を見せる。
アルテミラは、自分の前では常にしかめ面だった彼が口元を緩めて笑う姿に、頭を殴られたような気分になった。
おそらく彼は父親が決めたアルテミラとの婚約が気に入らなかったのだろう。
初対面の時に『お前は顔が地味なのだから少しは努力をしろよ』と笑って言われたことを思い出す。
「でも……それでも私はトマス様の婚約者です……」
なんとか自分の立場を思い出してもらえるように言葉を絞り出す。けれどもそれすらも馬鹿にされ笑われてしまった。
< 1 / 12 >