偶然?必然?運命です!

我が家がもっと遠かったら良かったのに……。



ガックリ肩を落とす。



「じゃあな」


「あのっ!!」


「うん?」


「服っ」



そう服!!



「洗濯して返しますので、そのっっ」



はしたない!?


女のコから連絡先聞くのってはしたない!?


初めてのことだからわからなーーいっ!!


いや、でも聞かねば。


服を返さなければいけないのだからっ。



「お名前と連絡先を教えてくださいっ」



言った!!


言ったった!!


しかし



「いや、服はいいよ。やる」


「うぇ!?」



やる!?


この服をくれると!?



やった!!

じゃなくて!!


それじゃあ連絡先がっ。



「でもっ」


「じゃあまた会えたら、その時には返してくれ」



笑ってそんなことを言う男の人。



拒絶……。



泣きそう……。



いや、諦めるな私!!



ここで諦めたら初恋終了だぞ!!



下を向きそうになるのをグッと堪え、睨みつけるように男の人を見る。



「せめて名前だけでもっ。恩人さんの名前は知っておきたいのです!!」


「恩人ってそんなおおげさ」


「いえ、紛うことなき恩人さんです!!あっ、私の名前は月城玖遠です!!」



人の名前を聞く前に自分の名前を言わなければ。


あわよくば覚えてもらって!!



「ハハッ!!負けたわ」



負けた?



「俺の名前は岸井希虎きしいきとらだ」



!!


教えてくれたーっ。


岸井希虎さんっ。


名前すらカッコいい!!



「じゃあ、またな」



“また”



それはまた会っても良いということですね!?



「はい!今日は本当にありがとうございました!」



勢い良く深々と頭を下げると、岸井さんは手を振ってくれた。



ワォオオオオオオンッ!!


っっ。


またしても聞こえてきた野犬の遠吠えに、岸井さんの姿が見えなくなるまで見送ってから慌てて家に入った。
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