叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
「当たり前ですよ。いいですか、一度しか言いませんよ。織原由花さん。華道織原流の次期当主です。年齢は確か二十五歳。お前とは九つも違うのに、叱られたとは。いい薬になりましたね」
俺はそれを聞いて驚いた。すっかり忘れていたがうっすら思い出したのだ。
『自由に花を活ける人になるのが私の夢。それが私の名前なの』
あの顔。目を合わせたときどこかで見たことがあると思った。面影が残っている……そういうことか。
「由花というのは、自由の由に花と書きますか?」
「そうよ?」
思い出した。生け花と聞いてふと思い出したことがあったが、まさか。そうか、彼女だったのか。ただ彼女は何も覚えていないようだ。
昔、母が入院してすでに昏睡状態だった頃、廊下の隅で足を抱えてすわっている小さな女の子を見かけた。涙を流していたので声をかけた。俺は高校一年だった。その時は制服を着ていた。彼女は多分、小学校低学年だったと思う。