冷淡男子の上條君は全振り初カノにご執心

バレンタイン当日。
ダイニングテーブルの上に父親用のクッキーを置いて、母親へは手渡しで。

「まどか、ありがとうね。これはパパとママからよ」
「……ありがと」

我が家はバレンタインでも親子交換をしてる。
一人っ子というのもあるし、若くして授かった娘に対する親の愛情だというから。

可愛らしい大きな袋を開けると、中から可愛らしい洋服が出て来た。

「上條君とのデートにでも着て行ってね♪」
「っ……」
「ほら、遅刻するわよ?」
「あっ、急がないと」

着替えるために2階へと急いだ。



自宅を出て人形町駅に着くと、今日も上條君がいる。
今渡す?
どうしよう。

手のひらサイズの小さなケーキにしたから、持ち運びは難しくはないけれど。
朝から手渡しってのも勇気がいる。

「小森、おはよ」
「……おはよう」

ダメだ。
サラリーマンや他校の生徒もいる前では渡せないっ。

いつも通りに改札を抜け、混み合ってる電車に乗り込む。

ドアに手を着き、窓の外を眺める上條君。
毎日専属SPみたいに、私を守ってくれている。
今日も爽やかなミントの香りがして、きゅんと胸が高鳴ってしまった。

すぐ隣りの駅で和香が乗り込んで来る。

「まどか、おはよ」
「おはよう」
「上條、おっはよ」
「おぅ」

和香が挨拶しても視線を合わせることもなく、返事だけする彼。
上條君らしくて、ついつい笑みが零れちゃう。

「まどか、割れないように缶とかケースみたいなのに入れて来た?」
「うん、ちゃんと入れて来たから大丈夫」

まどかの言葉にぴくっと反応を示した廉。

「あ、言っとくけど、クッキー焼いて来たけど、上條の分は無いからね?」
「くれるっつっても、長瀬からのは要らねーよッ」
「あーそうですか」

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