冷淡男子の上條君は全振り初カノにご執心
「遅かったな」
「先生にちょっと呼ばれて」
「そうなんだ」
ICカードで改札を抜け、彼の元に。
「ちょっと歩かね?」
「……うん」
もうすっかり定番ルートになった公園。
北風が肌を刺す寒空の下、彼と肩を並べてゆっくりと歩く。
「今日、上條君モテモテだったね」
「はぁ?」
「クラスの女子に囲まれてたし、1年の子がトイレにまで追いかけて来たんでしょ?クラスの男子が言ってたよ」
「……あいつら、余計なこと言いふらしやがって」
「どんな子だったの?」
「あ?」
「1年の子。可愛い子だった?」
「……それ、気になんの?」
「え?」
公園に到着し、暗黙の了解のような感じで木製のベンチに腰を下ろす。
「嫉妬、……してくれたんじゃねぇの?」
「………」
彼が言うように、このモヤモヤとした気持ちは嫉妬だ。
彼が誰と話そうが、何を貰おうが、私にとやかく言う権利はない。
けれど、分かっていてもやきもきする気持ちには嘘が吐けない。
「……そうなのかも」
「え……」
初めて口に出して認めた。
だって、今日はバレンタインなんだもん。
今日くらい素直な気持ちで彼と向き合いたいから。
鞄の底に入れておいた小さな箱を取り出す。
そして、意を決して立ち上がり、彼の前に。
「これ、よかったら貰って下さいっ」
「っ……」
両手で差し出した箱が震える。
というより、全身が震えて。
「ありがとう」
彼は優しい声音で受け取ってくれた。
それだけで十分だ。