冷淡男子の上條君は全振り初カノにご執心

約2週間練習した曲。
Owl City & Carly Rae Jepsen の『Good Time』。
明るくてテンポがよく、ハッピーな気持ちにしてくれるようなメロディー。

まどかは隣りからの圧に負けた。
“早くしろ”と目で視殺されては、白旗を挙げるしかない。

静まり返る体育館内に、ざわめきが起こる。
校内でも大人気の上條君がステージ上にいるからだ。

いつ私が練習してるところ見てたのか。
本当に課題曲が何なのか、知ってるのか。
どうして、今ここにいるのか。

脳内がぐちゃぐちゃになってしまうのを必死に堪え、チラッと横に視線を向けると、ほんの少し笑みを含ませた表情で小さく頷く。
ごくりと生唾を飲み込んで、鍵盤に指を乗せた。

楽譜が無いのにもかかわらず、上條君は私に完璧に合わせてくれる。
初めて彼と連弾しているというのに、全く違和感がない。

そもそも、彼がピアノを弾けるということすら、今初めて知ったのに。
痛みを忘れさせるほどに彼の演奏は見事で、緊張していたことすら忘れて楽しくなって来た。

彼の肩が揺れる度にミントの香りがふわっと漂って来る。
時折触れる肩先が何だかくすぐったくて、思わず笑みが溢れた。



およそ5分ほどのスライドショーが終わり、上條君と共にステージ上でお辞儀をすると、悲鳴に似た歓声と拍手の嵐。
それらは私にではなく、隣りにいる彼に向けられたものだ。

颯爽とステージ裏へとはける彼を追う。

「上條君っ、ありがとう!今日も、……あの日も。それと、叩いてごめんなさいっ」

やっと口に出来た感謝の気持ち。
それと、心からの謝罪を。

軽く上げられた手。
振り返ることなく、彼はステージを後にした。

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