冷淡男子の上條君は全振り初カノにご執心

結局、まどかの父親が勤務するという映画館に着いてしまった。

良いのか、悪いのか。
大抵のことには動じない廉が、この時ばかりは動揺してしまう。

「どの映画観るか、決めるか」
「そうだね。上條君はどんなのが好き？」
「俺は何でも大丈夫」
「じゃあ、今流行りのやつにしようか」
「そうだな」

館内に貼られている広告を見たり、上映スケジュールを確認していた、その時。

「まどかっ」
「ッ？！……あ、お父さん」
「っ……」

黒いスーツの制服姿にインカム姿の男性が声を掛けて来た。

「もしかして、デートか？」
「えっ、……そうなの……かな？」

チラッと上條に視線を送るまどか。
何て答えていいのか分からず、視線が泳ぐ。

「初めまして、上條と申します。まどかさんとは同じクラスです」
「あぁ～、上條君ね！まどかからよく話は伺ってます。いつも娘がお世話になってます」

見た目30代後半といった感じの若々しい父親。
けれど、キリっとした雰囲気と優しい眼差しは、何となくまどかに似ている。

「俺の話をよくするの？」
「あ、うん……。助けて貰ったこととか、学校のこととか、うちは何でも話すから」
「そっか」
「観るのは決まってるのか？」
「ううん、まだ」
「じゃあ、決まったらフロントに声掛けて」
「分かった」
「それじゃあ、上條君、娘のこと、よろしくね」
「あっ、はい」

にこやかな笑顔で会釈したまどかの父親は、颯爽とその場を後にした。

「なんか拍子抜けした」
「え？」
「うちの父親と大違い。ってか、すげぇ緊張したんだけど」
「あはっ、うちの両親、友達みたいって和香がよく言うの」
「……へぇ～」