冷淡男子の上條君は全振り初カノにご執心
午後の部が始まり、毎年大盛り上がりの種目『借り人競争』。
なのに、お題が必ず『借りられる物』では無いからだ。
仲良くなりたい人、謝りたい人、好きな人……。
お題が『人』に限定されていて、ゴールすると必ずお題の『理由』をマイク越しに告知することになっている。
まさか、この種目に上條君がOKを出すとは思わなかった。
クラスメイトの山木君の代わりに出場するらしい。
午前中に選手交代申請をしていたらしく、スタートラインの所に彼がいる。
「まどか、上條君出るんだね」
「そうみたいだね」
こういう目立つ競技は好きじゃなさそうなのに。
「位置に着いて、よーい……パンッ!」
1年生の借り物競争が始まった。
各クラスの代表が一斉に走り出す。
中間地点に置かれているお題の紙を取り、一斉に目当ての人を探し始めた。
「小森先輩っ、一緒に来て下さいっ!」
「えっ、私?!」
「はいっ!」
「まどか、行って来なっ!」
1年3組の実行委員の倉林 健人に手を差し出され、仕方なくその手を掴んだ。
*
1年の借り物競争がスタートした直後。
廉の視線の先に映ったのは、1年の男子に手を掴まれゴールへと走り出す小森の姿だった。
え……どういうこと?
思考が完全に停止して、眩暈がする。
「2着3組の倉林君、2年の小森さんを選んだお題は……『尊敬する人』です」
「いつも明るくて優しい先輩を尊敬してますっ」
「おぉ~っ、これは告白か~?倉林君、お疲れ様でした~。3着4組の…―…」
実況アナウンスの言葉にほんの少しだけ安堵する自分がいる。
『好きな人』じゃなくてよかったと。
けど、なんかモヤモヤする。
ゴール地点からクラスのブースに戻り始めた小森を視線で追いながら、スタートラインに移動する。
『好きな人』っていうお題が当たりますように。
全校生徒向けに結界を張りたい廉は、いつになく真剣な表情になっていた。