冷淡男子の上條君は全振り初カノにご執心
試験初日前日の放課後。
下駄箱で靴を履き替えていると、ふわっとミントの香りがした。
「小森、ちょっといい?」
「……ん」
「長瀬、駅まででいいから、小森借りていい?」
「……仕方ないなぁ、いいよ~」
何だろう、急に。
真剣な眼差しを向けて来る上條君に、ほんの少しドキッとしてしまった。
数メートル前を歩く和香と藤宮君。
その2人の背中を見つめていると、目の前に拳が突き出された。
「手、出して」
「……?」
言われた通りに手のひらを差し出す。
すると、ポトッと何かが手のひらに乗せられた。
「……お守り?」
「ん、昨日貰って来た」
隣りを歩く彼を仰ぎ見ると、ほんの少し照れた顔の彼がいた。
「全力出し切れる用のお守り」
「っ……、そんなお守りあるの?」
「いや、俺が念込めただけだけど」
「……フフッ、ありがと」
「迷惑だった「迷惑じゃないよ」
彼はこういう人だった。
私があからさまに拒絶したのにもかかわらず、私のことを考えてくれたんだ。
最初から、彼の優しさは知ってるはずなのに。
ちっぽけなプライドばかりが先行して。
みっともないほど感情をむき出しにした自分が恨めしい。
余裕が無さすぎっ。
もう恥ずかしくて穴があったら入りたい。
「試験勉強捗ってる?」
「あ、……うん」
「俺に一つでも勝てたら、そん時は、小森の望みを一つ叶えてやる」
「へ?」
「頑張ったご褒美に」
「……」
「ってか、ご褒美じゃなくて、プレッシャーだよな、ごめんっ」
「……じゃあ、その時は我がまま言っていいの?」
「っ?!……もちろん!!」
「あはっ、なら頑張る」
「おぅ」