冷淡男子の上條君は全振り初カノにご執心
視界に映る彼の手。
ごつごつとした骨ばった大きな手の親指の付け根部分にちょっとした傷がある。
ドアに手を着き、空間を確保する手の綺麗な爪に見惚れていると。
「電車に乗る時くらい、髪しばれよ」
「っ……」
「邪魔だし、鬱陶しい」
「………」
別にいいじゃない。
長かろうが、垂らしていようが。
上條君には関係ないじゃないっ!
言い方ってもんがあるでしょうがっ!
女の子相手に、もう少し気を遣うとか出来ないわけ?
やっぱり、彼はデリカシーの欠片もない毒男だ。
降車駅の人形町に到着した。
ドア付近から電車内の中央へと押し流されそうなる私の腕を掴んで、上條君が電車から降りた、その時。
「ありがっ…痛っ」
私の髪が、彼のYシャツのボタンに絡まってしまった。
「あっ、悪ぃ、動くな」
「っ……」
ホームから改札口へと向かう人の波に呑まれないように、抱き寄せるみたいに背中に手が添えられた。
ホームに降り立った私は慌てて絡まった髪を解そうとボタンに顔を寄せた、次の瞬間。
駆け込み乗車を注意するアナウンスと共に、階段から駆け上がって来たサラリーマンにドンッと押され、視線を落としていた彼に――。
「んっ……ッ?!!」
えっ、うそっ……。
唇に柔らかい感触が。
しかも、目の前に目を見開いている彼の顔がどアップに。
うっわぁっ!
私、上條君とキス、……してしまったらしい。
ブチッという音と共に、パッチーンッ。
ハッと我に返った時には上條君に平手打ちしていた。
「私に気安く触んないでっ!」
「ッ?!」
生まれて初めてのキス。
事故だと分かっているのに、恥ずかしすぎて心に無いことを口走っていた。