冷淡男子の上條君は全振り初カノにご執心
リビングに通され、小森の母親がキッチンで夕食の支度を再開する。
「本当にごめんねっ」
「あ、いや……全然」
「悪気があってしてるんじゃないんだけど、うちのお母さん、あれで素だから」
「……可愛らしいお母さんだな」
紅茶の入ったカップが目の前に置かれ、隣りに腰を下ろしたまどか。
溜息を零しながら、キッチンに立つ母親を眺めてる。
「前にも俺のこと、両親に話してるって言ってたけど、どんな感じに?」
「……う~ん、ジャージを借りたでしょ。あの時、洗濯して干してあったのを見た母親に聞かれて。事の経緯を話して、その後はまぁ流れ的にというか、チケット貰う時もそうだし、怪我した時もそうだし」
「あー、うん、そうだったな」
「何なに~♪イチャイチャしたかったら、まどかのお部屋にど~ぞ~♪」
「っ……」
「もうっ、お母さん、いい加減にして!!」
何だか、急展開すぎて脳がついて行かない。
状況的には願ったり叶ったりなんだけど。
これって、試されてるんじゃ……?
暖房がガンガンに焚かれている部屋なのに、背筋がスーッと凍るほど寒気が走る。
大抵のことでは動じない俺だが、初めて彼女の父親に会った時もそうだが、やっぱり身内に会うのは別格のものらしい。
「上條君、由くん(まどかの父親:由幸)帰って来るのが、深夜2時過ぎだから、ゆっくりして行ってね~♪」
「小森のお父さん、帰宅時間がだいぶ遅いんだな」
「交替制だから、その日によって違うけど、今日は遅番みたい」
「そうなんだ」
確かに映画館勤務だと、不規則だろうな。