冷淡男子の上條君は全振り初カノにご執心
毎日のように放課後は音楽室か生徒会室で練習する。
個人練習と映像と併せた実践練習を。
自宅に帰っても自主練は欠かさない。
だって1年のブランクがあるから。
やるからには完璧でありたい。
後悔はしたくないから、私は何事も常に全力で取り組む。
*
朝陽がデートに誘われ、廉と一緒に帰らない日の放課後。
徹夜で本を読み耽ったせいで睡眠不足の廉は、空き教室で昼寝していた。
どこからともなく聴こえて来るメロディーで目を覚ます。
すっかり辺りが暗くなっていることに驚き、リュックを肩に掛けた。
帰ろうとしていた廉の足が、曲に誘われるように勝手に向く。
辿り着いたのは4階の音楽室。
テンポよく紡がれる楽し気な音色に、廉はドアをほんの少し開けて中を覗いた。
すると、そこにいたのは自分の後ろの席の小森 まどか。
真剣な表情で何度も同じところを練習している。
「結構上手いじゃん」
一カ月ほど前に、下校途中の電車内で痴漢に遭遇している小森を発見し、無意識に助けていた。
基本、物にも人にも執着しない性格の廉。
どんな事にも熱くなれない冷めた性格で、これまで好奇心をそそられたものは一つも無い。
勉強でもスポーツでも適当にやっても常に成績優秀で、達成感だとか向上心だとかとは無縁。
そんな廉の視線の先に、陽気な曲を至極真剣な表情でピアノを弾くまどかがいた。