運命の恋を、君と…
食事と酒を楽しんでいると、不意に俊英が言った。

「お袋さんは?体調とかどうなの?」
「え?あ……」
蓮花のフォークとナイフを持つ手が止まる。

俊英も、当然母親のことは知っている。
高校の時は、それなりに心配してくれていた。

「………」

「ん?蓮花?
もしかして、悪いの?身体」


「━━━━━二ヶ月前に亡くなったの」

「え……」

「私が大学卒業して、倒れて、ずっと家で介護してたの。
で、今年に入ってすぐ亡くなったの。
やっとね、自分の時間が取れるようになって、御子が“恋愛しな”って言ってくれて……
私ね、この10年……介護と仕事しかしてこなかった。
だから今更、どうしたらいいかわからなくなったの。
ぽっかり穴が空いてて、寂しくて……」

「そっか……
頑張ったんだな、蓮花」

「え……」

「必死でお袋さんを支えて、きっと…蓮花のことだから、弱音も吐かなかったんだろ?
よく頑張ったな、お疲れ様!」
俊英が手を伸ばし、ゆっくり頭を撫でてくれた。

「………/////」
あっという間に、瞳が潤みだす。

「ん?蓮花?」

俊英は、いつもそうだ。
蓮花の一番欲しい言葉を、まるで心を読んだかのように言ってくれる。

そして取り繕うこともせず、ただ真っ直ぐ伝えてくれるのだ。

「………がと…」

「ん?」

「ありがとう!俊英!」

「ん!」


そして、レストランを出る二人。
「━━━━俊英、お金!」
「いらねぇ!」

「ダメ!」

「しつこい!」

「しつこくて、結構!」

「カッコつけさせろよ!」

押し問答を繰り返している二人。
俊英が、いつの間にか会計を済ませていたからだ。

「………」

「な?」

「………わかった。
ありがとう!」

「ん!素直でよろしい!
じゃあ俺、煙草吸ってくるから、駅横のベンチで待っててよ。
送るから!」

「え?いいよ。一人で帰れる!」

「は?
一人で帰すか、バカ!」

「ば、バカ!?」

「いいから!待ってろよ!」

念押しするように言って、喫煙所に向かった俊英。

無視して帰ろうかな。

…………いやいや、そんな勝手なことできない。

真面目な蓮花に、勝手に帰るなんてできないのだ。
蓮花は、ベンチに座りボーッと空を見上げていた。
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