結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
私が動揺してフリーズしているあいだに、矢崎くんは支払いを済ませ、レジ袋にものを詰めてもらって持った。

「ほら、いくぞ」

「えっ、あっ、……そう、だね」

声をかけられて我に返る。
そうか、夫婦になったんだから、そういうことをするのか。

右手に鞄と荷物を持ち、左手で私の手を引いて矢崎くんは歩いていく。
どんな顔をしていいのかわからなくて、ただ俯いて歩いた。
彼はビルの中を進んでいき、エレベータの前で足を止めた。

「えっと……」

「俺んち、この上なの」

「……ハイ?」

理解が追いつかず、首が斜めに倒れる。
この上とは、このビルに住んでいるってことですか……?

「えっ、あっ!?
いやいやいやいや」

「なにがいやいやなんだよ」

エレベータに乗り、私の態度に彼は不満そうだが、仕方ない。
いくらうちがそれなりの大企業でも、二十代の若き課長が都心の一等地に建つタワマンに住めるほど、給料を出しているわけではない。
……せめて、低層階で。
それならまだ、現実味がある。
しかし、エレベータはぐいぐい上っていき、最上階で止まった。

「ようこそ、我が家へ」

「あっ、えっと。
……お邪魔、します」

矢崎くんはなんでもないように部屋に入れてくれたが、本当にここに住んでいるの?
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