結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
通されたリビングは、驚くほど広かった。
眼下には地上の光が星のように広がる。

「ねえ」

「なに?」

勧められてアイボリーのソファーに座る。
革張りのそれは、座り心地が最高だった。

「家賃、どうしてるの?」

不躾ながらつい、聞いてしまう。

「んー、投資とかそんなので稼いでる」

さらっと言い、スプーンとコップを手に矢崎くんは隣に座った。
のはいいが、怪しい。
怪しすぎる。
いまさらながら、私は会社での彼しか知らないのだと気づいた。

「なんか疑ってるな?」

「えっ、あー、ね?」

顔をのぞき込まれ、曖昧に笑って目を逸らす。
はい、そうですなんて言えるわけがない。

「まあ、そりゃそうだよな。
ただの同期がこんな立派なマンションに住んでたら、俺だっていろいろ勘ぐる」

皮肉るように笑い、矢崎くんは買ってきたアイスを開けた。
溶けるのはもったいないので、私もそれを合図に開ける。

「実は、会長が俺の祖父で、俺は次期跡取りなんだ」

「……ハイ?」

驚きの事実を聞かされているのは理解しているが、衝撃が大きすぎて情報が処理できない。
私は無の表情で首を傾げていた。
おかげで、掬ったアイスが膝の上に落ちる。

「おい、落ちてるぞ!」

「えっ、あっ、うん」

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