結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
「言った。
よくごはんを作ってくれた、お父さんみたいな人が理想なんだって。
でもそのあとで、女作って出ていくお父さんがかよっ、って総ツッコみ受けてたけど」

「は、はははは……」

とりあえず、笑って誤魔化す。
もし、結婚するとしたら、父のような人がいいと思っていたので、言ったかもな。
その点、矢崎くんは……。

「ん?」

私がうかがうように見ているのに気づいたのか、僅かに彼の首が傾く。

「……なんでもない」

熱を持つ頬で俯き、ちまちまとベビーリーフをフォークで刺す。
矢崎くんは父に負けず劣らず、素敵な人だ。
あんなことがなければ、父にも紹介できたのにな。
でも、あんなことがあったからこそ、この会社に入って矢崎くんに出会えたのだけれど。

「てかさっき、入社した年の夏にあったキャンプでって言った?」

「あー……」

なにかやましい気持ちでもあるのか、長く発したまま彼が斜め下を見る。

「……言ったな」

ははっと笑い、今度は彼が誤魔化してくる。

「それって六年も前の話だよね?」

そんなに前から私の好みの人間になるために、努力をしていた?
ということは、そんなに前から私が好きってこと?
いやいやいや、ありえない。

「……純華は覚えてないだろうけどさ」

< 143 / 193 >

この作品をシェア

pagetop