結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
私の目は見ずに、さっきの私みたいに矢崎くんはちまちまとフォークにベビーリーフを刺していっている。

「俺、純華に助けられたんだよね」

眼鏡の奥からちらっと、彼が私をうかがう。

「えっと……」

私に、矢崎くんを助けた記憶なんてまったくなくて、戸惑った。

「入社してちょっとしてから、純華と同じ仕事しただろ」

「あー、あったねー」

新商品の大がかりなイベントで、私と矢崎くんはともに下っ端使いっ走りをやっていた。

「あのときさ、得意先の接待に一緒に連れていかれたの、覚えてるか」

「……忘れた」

いや、正確にはあれは、消し去った記憶なのだ。
なのでこうやって、掘り起こさせないでほしい。

「若い男好きの社長に、どんどん飲まされてさ。
といっても俺は、並の飲み比べで負けないくらい強いから、面倒くせー、俺が社長になったら大口の得意先でも絶対切る!
とか思いながら笑顔貼り付けて凌いでたんだけど」

「……うん」

ばっくん、ばっくんと大きく心臓が鼓動する。
この先、なにが出てくるかわかっているだけに、今すぐ矢崎くんの口を塞ぎたい。

「突然、隣に座ってた純華が俺のグラスを奪って一気飲みして、
『いい加減になさったらいかがですか。
こういうの、アルハラっていうんですよ。
ご存じないんですか?』
って、啖呵切った」
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