結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
「一般社員として働いて、修行中なんだ。
俺が会長の孫だと知れば、特別扱いするなといってもやっぱ無理があるだろ?
だから、隠してる。
知ってるのは身内だけだな」

大真面目に矢崎くんが頷く。

「そうなんだ……」

血縁とはいえ、彼はアイツとも、アイツの息子とも全然違う。
アイツらは今も昔もそれを笠に着て、やりたい放題だ。
わかっている、それでも感情はそうはいかない。

「あのさ。
……子会社の鏑木(かぶらぎ)社長って……」

つい、声が抑えめになってしまうのはそれだけ聞きづらい話題なのもあるが、私にやましいようなところもあるからだ。

「ああ、アイツ?」

苦々しげに矢崎くんの顔が歪む。
年上の人間、しかも上役をアイツ呼ばわりとは失礼極まりないが、彼がそうしたい理由はよくわかる。
それほどまでに社内でも鏑木社長は嫌われていた。

「一応、叔父だけど、一族の恥だよ。
血が繋がってるって思うだけで虫唾が走る」

本当に嫌そうに、矢崎くんが吐き捨てる。

「祖父ちゃんもどうにかしたい気持ちはあるみたいなんだが、なにせ年取ってからできたひとり息子だ。
つい甘やかしてしまうらしい。
だからといって許されるわけじゃないが」

困ったように彼が笑う。
これで少し、謎が解けた。
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