結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

「あーうー」

「どうした?」

ソファーの上をごろごろと転がりながら悶えていたら、矢崎くんがお風呂から上がってきた。

「な、なんでもない」

笑って誤魔化し、起き上がる。
彼に、私の事情を知られたくない。

「もしかして、今からのこと考えてた?」

冷蔵庫から水のペットボトルを出してきて、隣に座った彼がにやりと笑う。

「あ、いや。
全然」

そうだ、そっちも大問題なんだった。
矢崎くんに迫られたらどうしよう。

「なら、いいが」

なんでもないように彼は、水をごくごくと飲んだ。

「そろそろ寝るか」

「そう、だね」

別々でなんて主張ができるわけもなく、一緒のベッドに入る。

「……純華」

すぐに、矢崎くんから押し倒された。
熱を孕んだ目が私を見ている。
仮にも夫婦になったんだし、彼がそういうことをしたいのはわかる。
――しかし。

「……ごめん」

短くそれだけ言い、顔を背けた。

「いや、いい」

淋しそうに笑い、彼が私から離れる。
そのまま、並んで布団に潜った。

「別に好きあって結婚したわけじゃないんだし、急には無理だよな」

「……ごめん」

きっと、矢崎くんが会長の孫だと知らなければ、受け入れられていた。
< 18 / 193 >

この作品をシェア

pagetop