結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
示談という名の口止めに応じなかった女性は、賞賛に値する。
……と言いたいところだが、紘希の仕込みだと聞いたら、なんともいえない気持ちだ。
会社としては庇う気なんてさらさらないし、息子を注意するどころか被害女性を脅していた父親ごと会社を追放となった。

「大丈夫、大丈夫。
アイツら、祖父ちゃんからかなりの資産を譲ってもらった癖に、もうそのほとんどを食い潰してるしさー。
だから、横領とかやってたんだろ。
金がなきゃ誰も従わないからな」

鏑木親子は会社の追放に加え、多額の横領で訴えられている。
本当に人生のピンチ状態なのだが、本人たちが自覚しているのかは怪しい。

「そうだといいけど……」

父の事件のあと、怒りマックスの会長から仕事の厳しい海外支社へとアイツは飛ばされたらしい。
しかし反省するどころかそこでも問題を起こしまくり、あわや国際問題に発展しそうになって慌てて帰国させたそうだ。
それでせめて目の届くところに置いておいたほうがマシ、ということで子会社の社長に据えたという話みたい。
そんなわけなのでアイツの失脚は溜飲が下がる思いだが、一抹の不安がある。

「純華は優しいな」

へらっと、締まらない顔で嬉しそうに紘希が笑う。
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