結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
母はなにも言わない。

「……わかったわ」

まるでため息のように母は言葉を吐き出した。

「あなたはアイツと違って、とても真面目な人みたいだし。
結婚を許可します」

まるで仕方ないわね、とでもいうように母が笑う。
それでほっとしたのも束の間。

「でも。
少しでもアイツと同じだと思ったときは、速効で別れてもらいますからね」

すっと細くなった母の目はどこまでも冷たくて、肝が冷えた。

「肝に銘じておきます」

矢崎くんも同じだったらしく、神妙に頷いた。

そのあとは比較的穏やかに、取ってあったお寿司を三人で食べた。
なんだかんだ言って母も、アイツと血縁というのを除けば、矢崎くんを気に入っていた。

「紘希くんの親御さんとの顔合わせとか、式の日取りとか、決まったら早く教えてね」

「わかったー」

和やかムードで実家をあとにする。

「よかったー、純華のお母さんが結婚を認めてくれて」

矢崎くんは心底ほっとした顔をしているが、昨日は自信満々でしたよね?
「そんなに不安だったの?」

「だって純華が散々、不安を煽っただろ。
しかもアイツの話が出て肝が冷えた」

「そうなんだ」

いつもさらっとなんでもこなしてしまう彼にも、こんな不安があったりするのだと初めて知った。

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