結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
矢崎くんはこのとっつきにくい私と気さくに接してくれる、貴重な存在だ。

「今、ショッピングモールのオープニングイベントの仕事してるんだっけ」

「そう」

互いに頼んだものを受け取り、店を出てまた歩き出す。

「ま、無理はするなよ」

矢崎くんが慰めるようのぽんぽんと軽く肩を叩いたところで、会社に着いた。
無理はするなと言われても、係長になって初めて任された仕事だ。
なんとしてでも成功させたい。
なんてこのときは燃えていたんだけれど――。



「『瑞木(みずき)係長は子供がいないからわからないでしょうけど』って、だったら具体案をもってこいってゆーの」

「はいはい」

私の前で矢崎くんは、笑いながらハイボールを傾けている。
今日のミーティングは散々だった。
ママさん社員はマウントを取ってきたくせに具体的なアイディアはなにも言わない。

「子供がいないからわからないっていうなら、わかるように説明してくれるのが仕事ってもんでしょーが。
マウントだけ取っていい気持ちに浸るなってゆーの」

「そーだなー」

ミーティングで鬱々とした気分を晴らしたくて飲みに誘ったら矢崎くんは承知してくれ、こうやって居酒屋で飲んでいた。
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