結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
「誰が一緒に入るかー!」

「おっと」

反射的に繰り出された拳は、彼の手によって阻まれる。

「いまさら恥ずかしがる仲でもないだろ?」

「恥ずかしがる仲だよ!」

不思議そうな矢崎くんに力一杯言い切った。
酔って送って帰ってもらったことは多々あるが、裸体どころか下着姿すら晒していないのだ。
なのに〝いまさら〟って、なにがいまさらなのかわからない。

「ま、どうせあとで見るからいいか。
ほら、先に入ってこいよ」

「……そうする」

譲ってくれたので素直に、先に洗面所兼脱衣所へと行く。

「はあぁぁぁぁぁぁぁっ」

ひとりになって、腰が抜けたかのようにその場に座り込んだ。
なんというかさっきの矢崎くんは、凄く……すごーく色っぽくてドキドキした。
今だってまだ、心臓の鼓動は落ち着いていないくらいだ。
こう、夜の大人の色香っていうか?
ラストノートの官能的な甘い香りと相まって、うんと頷きそうになっていた。
危ない、危ない。

「うーっ」

浴槽に浸かり、ひとりで唸る。
もっと、気を引き締めていかねば。
さっきみたいに迫られて、一線を越えてはいけないのだ。
矢崎くんには申し訳ないけれど、身体の関係だけは結ぶまいと決めていた。
これは私にとって仮初めの結婚関係。
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