結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

「……ごめん、言えない」

それを晴らすように精一杯、笑って彼に答えた。

「純華は言えない秘密ばっかりだな」

悲しそうに矢崎くんの顔が歪む。
私も大事なことをなにひとつ彼に言えない自分が、情けなかった。

「……ごめん」

「謝らなくていいよ」

そっと彼の親指が、目尻を撫でる。
そのまま下りてきた手は、私を抱き締めた。

「覚えておいて。
俺は純華にどんな秘密があっても、純華を愛してる。
それがたとえ、犯罪でも」

証明するかのように、ぎゅっと彼の腕に力が入る。

「……ありがとう」

今はそう言っていても、真実を知れば気持ちは変わるかもしれない。
それでも、矢崎くんの言葉が嬉しかった。



「おはよう、純華」

私にキスしてくる矢崎くんからは、お味噌汁のいい匂いがする。
……のはいい。

「目覚まし鳴った!?」

次の瞬間、朝の甘い時間なんてぶち壊して飛び起きた。

「鳴ったよ、キッチンで」

なんでそんなところでって、矢崎くんが私の携帯を持ち出したからに他ならない。

「私が朝食作らなきゃいけないのに……ふがっ!」

彼からお味噌汁の匂いがするということは、もうすでに彼が作っているってことだ。
ふがいない自分に落ち込んでいたら、鼻を摘ままれて変な声が出た。

< 55 / 193 >

この作品をシェア

pagetop