結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
拒むより先に、唇が重なった。
これで終わりだと思ったのに、彼は何度も私の唇を啄んできた。
連続して短い口付けが続き、息をつくタイミングがわからない。
それでも、とうとう限界が来て……。

「ぷはっ。
……んんっ!」

唇が離れた隙に息をした瞬間。
その間を逃さずにぬるりと彼が入ってきた。
驚いて思わず、目を見開いてしまう。
そこでは難しそうに眉を寄せている矢崎くんが見えた。
彼に私を探り当てられ、びりびりと弱い電流のようなものが身体に走る。
それでまた、目を閉じていた。
彼が唇の角度を変えるたび、どちらのものかわからない甘い吐息が漏れる。

……キスって、こんな甘美なものだったんだ。

ぼんやりとした頭のどこかで、そんなことを考えていた。

「……」

唇が離れ、ふたり無言で見つめあう。

「めっちゃ蕩けた顔してて、可愛い」

ちゅっと軽く、彼の唇が重なる。

「他の男にもその顔を見せてたかと思うと、ムカつくけど」

苦々しげに顔を顰める彼を、まだ夢の中にでもいるかのように見ていた。

「あー、うん。
キスは矢崎くんとしかしたことないから、他に見てる人はいないよ……」

「マジか」

再び眼鏡をかけた矢崎くんの目が、そのレンズの高さに迫らんばかりに見開かれる。

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