結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
絶対、怒っている。

「まあ、会長に問題提起して、その頃までには純華の仕事が楽になるようにするけどな」

はぁっと諦めるように小さくため息をつき、彼は私の頭を軽くぽんぽんした。
もしかして、慰められている?

「朝食食べたら手伝ってやる。
んで、なに食べたい?」

にかっと笑い、矢崎くんが私の顔をのぞき込む。

「えっ、私が作るよ!」

この一週間、毎日矢崎くんが朝食を作ってくれた。
それだけじゃない、夕食もほとんど彼で、申し訳ない。
といっても、家政婦さんの作り置きと冷食ストックが主だけれど。

「俺が作ったほうが純華は仕事ができて、俺は純華とゆっくり過ごす時間がその分できるからいいの。
ほら、なに食べたい?」

「……なんでもいい」

「なんでもいいが一番困るんだけどなー。
とりあえず、顔洗ってくるわー」

髭が気になるのか、顎を触りながら彼はリビングを出ていった。

……矢崎くんには敵わないな。

私は忙しいからと、甘やかせてくれる。
それが嬉しくもあり、心苦しくもあった。
なにか、お返しできるといいんだけれど。
ちなみに彼は、寝起きでもどこに髭が生えているのかわからない。

洗顔を済ませて戻ってきた矢崎くんは、キッチンでごそごそはじめた。
そのうち、いい匂いが漂ってきだす。
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