結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
少しだけれど、可愛いとやたらキスしたがる彼の気持ちがわかった。

「よかった」

今度はあきらかにほっとした顔で笑う。
それに心臓がぎゅん!と締まった。
もう、さらにそんな可愛い顔見せるの、やめてほしい。
私の心臓が持たないから。

「純華?」

私の様子がおかしいと気づいたのか、怪訝そうに矢崎くんが私の顔をのぞき込む。

「えっ、あっ、なんでもない、よ」

慌てて取り繕ったけれど、今、顔をあまり見られたくない。
絶対、不審者丸出しのヤバい顔をしているもん。

「お待たせしましたー」

コーヒーを飲みながらどうにか気持ちを落ち着けていたら、美容部員と思われる女性が入ってきた。

「基本的なメイクの仕方でよろしかったでしょうか」

「はい、それでお願いします」

テキパキと道具を広げていく彼女に、緊張した笑顔を向ける。

「では……」

こうして私のメイク教室が始まった。

――一時間後。

「本日はありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました」

部屋を出ていく美容部員へ、私も頭を下げる。

「ふぉぇー、メイクで全然変わるんだねー」

改めて見た鏡の中、相変わらず私はつり目だったが、怖いというよりも落ち着いた大人の印象になっていた。
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