結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
痛む額を押さえながら、プライベートだけじゃなく仕事も支えてくれるなんて、矢崎くんはスーパー旦那様だな、なんてバカなことを考えていた。

食後、矢崎くんがコーヒーを淹れてくれる。
いつも夕食のあとはこうやって、一緒に過ごしていた。

「で、さっきのお詫びだけど」

ソファーに座り、彼が切り出してくる。

「う、うん」

なにを言われるのかわからず、どきどきとしながら続きを待った。

「純華からキス、して」

「うん。
……は?」

惰性で頷いたものの、言われた内容を理解して彼の顔を見る。
矢崎くんは期待が隠しきれない顔で私を見ていた。

「えーっと。
……私、から?」

笑顔が引き攣りそうになる。
そんなの、できるはずがない。

「そう。
純華から」

「うっ」

レンズの向こうからキラキラした目で見つめられ、たじろいだ。
キスしてくれるよね? って、圧が凄い。

「えーっと。
別の……」

「ん」

他のモノに変えられないか聞きたいのに、そうはさせないとでもいうのか、矢崎くんは目を閉じて唇を少し突き出して封じてきた。

「うっ」

これはしないと、するまで待たれそうだ。

「……わかったよ」

ため息をひとつつき、腹を決める。
キスなんて毎日、しているじゃないか。
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