あやかしの甘い束縛
町に恩恵を与えてくれる不思議な石。

だけど、私はこの石が苦手だった。
一度、子供の頃に遠足で訪れたことがあるが、
山頂にポツンと置かれたその岩の周りだけ木々が一本も生えてなくて酷く不気味なものだった。
見ているだけで、なんだか石の中に吸い込まれそうな気がしてすぐにでもそこから逃げ出したい気持ちになるのだ。

しかし、なぜだろう...?

テレビ越しにも拘らず、この割れた蛇神石を見ているだけで、なんだか胸の奥がざわざわとして落ち着かない。

ずっと避けていたその場所に今すぐにでも行かなくてはいけないような気持ちにさせられる。

私はざわめく胸を落ち着かせるように、自分の胸に手を当てた。

「美琴さん────ッ!!」

急に背後から甲高い声で名前を呼ばれ、私はビクッと肩を震わせた。

「お、女将っ」

私が振り返ると、客室の入り口で女将が睨みつけるようにこちらを見ていた。

「遅いから様子を見に来てみれば、
あなた、掃除のしないでなにを呑気にテレビなんて見てるのッ」


「す、すみませんッ。」

私は女将の鬼のような形相に慌てて掃除を再開する。


「全くほんとトロいんだから···」

女将は呆れたように息を吐きながら、つけっぱなしのテレビに目を移した。

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