あやかしの甘い束縛
「えっ?このテレビに写ってるところって蛇巣山じゃないの...?」

先程まで嫌味を言っていた女将はテレビを見つめたまま、固まっている。

「はい..蛇巣山の蛇神石が雷で割れちゃったみたいで...」


「割れちゃったみたいって...あなた、何を他人事みたいに言ってるのッ!!こんな大変なこと早く報告しに来なさいよッ」



「す、すみませんッ」


女将は私に向かって聞こえるように舌打ちをすると、血相を変えて部屋を飛び出していった。

女将が部屋から出て行って、緊張の糸が切れた私はヘナヘナと崩れるように畳の上へと座り込んだ。

女将が血相を変えるのも無理はない。

うちの旅館の宿泊の半数以上があの蛇神石目当てで宿泊しているのだ。

その蛇神石が割れてしまったとなれば、今日からキャンセルの嵐に違いない。そうなると、この旅館の存続も危ぶまれることになる。

この一大事にも関わらず、不謹慎にもホッとしている自分がいた。

この旅館が廃業になれば、もしかしたら私もここから解放されるかもしれない。

石が割れたことで、封印されていたという白蛇が解放されたように
私もこの旅館から出て自由になれるのではないかと。

そんな儚い夢を描いてしまう。
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