恋人は謎の冒険者
ギルドの建物のひとつ手前の路地で、隠れるようにして待ち伏せしていたプリシラは、物凄い形相でマリベルに詰め寄った。
「あんた、わざとでしよ!」
「何が?」
いつも人からどう見られるか気にしているプリシラが、今朝は髪もクチャクチャで、目が血走っている。
「エミリオのことよ! あんた、わざと彼に難しい依頼受けさせて、失敗させたんでしょ」
「はあ?」
プリシラの勝手な言い分にマリベルは開いた口が塞がらなかった。
「夕べ、私が働いていたら『エミリオがどこにいるか教えろ』って凄い剣幕で大勢が押し掛けて来たのよ、恋人ならどこにいるのか知っているんだろとか、隠すとタダじゃおかないとか脅されて…店長も私がいたら騒ぎが大きくなるから暫く休めとか言うし、一体どうなってるのよ」
ウルフキングから一人逃げて行方不明のエミリオを探して、恋人のプリシラのところへ人々が押しかけたようだ。
「あんたが、エミリオに振られた腹いせに無理な依頼を受けさせたんでしょ!」
「あなただって、エミリオが自分であの依頼を受けるって決めたのを見ていた筈よ。言いがかりはヤメテ」
パッと手を跳ね除け、強い口調で言い放つと、プリシラは一瞬怯んだ。
「なによ、マリベルのくせに…生意気ね。ギルド長の娘としての価値しかない。あんたなんて、色気も女としての魅力もない」
憎々しげにプリシラが言った。
友達ヅラして心の中では、マリベルのことをそんな風に馬鹿にしていたのがわかった。
「とにかく、エミリオのことで変な言いがかりはやめて。彼は仲間を見捨てて逃げるという、冒険者としては最低なことをやったのよ。それは私のせいじゃない。あなたも私に文句を言いになんて来てないで、お門違いだわ」
軽く彼女を押しのけてマリベルはギルドに向かった。
「マリベルのくせに偉そうに、覚えておきなさい!」
背後からプリシラの怒鳴り声が聞こえてきた。
フェルのお陰で幸せだった気持ちが一気に萎んだ。
マリベルが出勤すると、ギルド内は既に騒然としていた。
「あ、マリベル、大変よ」
「何があったの?」
マリベルが出勤簿に登録するとキャシーが駆け寄ってきた。
「エミリオらしい死体が森の外で見つかったんだって」
「え!」
死体…エミリオ、死んだの?
「らしい?」
「それが黒焦げで誰かわからないけど、背格好は似ていたし、身につけていたギルドカードが彼のものだったから、取り敢えず『らしい』なのよ」
取り敢えず昨晩王都から戻ってきた副ギルド長が現場に向かったそうだ。
「それにどうやらエミリオ、下級の冒険者に経験を積ませてやるからとか言って、自分の引き受けた依頼に同行させて、自分一人でやったみたいに偽装してたみたいなの」
「え、何それ」
「それに依頼者にこれは追加料金がいると丸め込んで、規定の報酬に上乗せさせて、裏でお金を受け取っていたらしいわ。協力させた冒険者には勉強代だって言って手数料を引いて、雀の涙程度のお金しか渡していなかったって」
昨日のウルフキングの騒動を聞いた人たちが、次々と訴えてきたらしい。
「エミリオって、最低ね」
本当に自分は彼の何を見ていたんだろう。エミリオのいいところなんて、ちょっと綺麗な見た目だけで、それも内面の醜悪さが滲み出てきて、今では嫌悪しか感じない。
「それに比べて、フェルさんって評価瀑上がりよ。昨日助けられた人たちなんて、神か何かを崇めるみたいに、一生ついて行きますアニキって言っているらしいわ。そう言えば、今日は一緒じゃなかったの?」
「そ、そんな毎朝一緒ってわけじゃないわ。今日は用があるみたいだし」
フェルの評判が予想以上に上がり、これまで何とも思っていなかった人たちも彼に関心を寄せるようになった。
それはいいことなのだが、マリベルは何だか複雑な気持ちになった。
「あんた、わざとでしよ!」
「何が?」
いつも人からどう見られるか気にしているプリシラが、今朝は髪もクチャクチャで、目が血走っている。
「エミリオのことよ! あんた、わざと彼に難しい依頼受けさせて、失敗させたんでしょ」
「はあ?」
プリシラの勝手な言い分にマリベルは開いた口が塞がらなかった。
「夕べ、私が働いていたら『エミリオがどこにいるか教えろ』って凄い剣幕で大勢が押し掛けて来たのよ、恋人ならどこにいるのか知っているんだろとか、隠すとタダじゃおかないとか脅されて…店長も私がいたら騒ぎが大きくなるから暫く休めとか言うし、一体どうなってるのよ」
ウルフキングから一人逃げて行方不明のエミリオを探して、恋人のプリシラのところへ人々が押しかけたようだ。
「あんたが、エミリオに振られた腹いせに無理な依頼を受けさせたんでしょ!」
「あなただって、エミリオが自分であの依頼を受けるって決めたのを見ていた筈よ。言いがかりはヤメテ」
パッと手を跳ね除け、強い口調で言い放つと、プリシラは一瞬怯んだ。
「なによ、マリベルのくせに…生意気ね。ギルド長の娘としての価値しかない。あんたなんて、色気も女としての魅力もない」
憎々しげにプリシラが言った。
友達ヅラして心の中では、マリベルのことをそんな風に馬鹿にしていたのがわかった。
「とにかく、エミリオのことで変な言いがかりはやめて。彼は仲間を見捨てて逃げるという、冒険者としては最低なことをやったのよ。それは私のせいじゃない。あなたも私に文句を言いになんて来てないで、お門違いだわ」
軽く彼女を押しのけてマリベルはギルドに向かった。
「マリベルのくせに偉そうに、覚えておきなさい!」
背後からプリシラの怒鳴り声が聞こえてきた。
フェルのお陰で幸せだった気持ちが一気に萎んだ。
マリベルが出勤すると、ギルド内は既に騒然としていた。
「あ、マリベル、大変よ」
「何があったの?」
マリベルが出勤簿に登録するとキャシーが駆け寄ってきた。
「エミリオらしい死体が森の外で見つかったんだって」
「え!」
死体…エミリオ、死んだの?
「らしい?」
「それが黒焦げで誰かわからないけど、背格好は似ていたし、身につけていたギルドカードが彼のものだったから、取り敢えず『らしい』なのよ」
取り敢えず昨晩王都から戻ってきた副ギルド長が現場に向かったそうだ。
「それにどうやらエミリオ、下級の冒険者に経験を積ませてやるからとか言って、自分の引き受けた依頼に同行させて、自分一人でやったみたいに偽装してたみたいなの」
「え、何それ」
「それに依頼者にこれは追加料金がいると丸め込んで、規定の報酬に上乗せさせて、裏でお金を受け取っていたらしいわ。協力させた冒険者には勉強代だって言って手数料を引いて、雀の涙程度のお金しか渡していなかったって」
昨日のウルフキングの騒動を聞いた人たちが、次々と訴えてきたらしい。
「エミリオって、最低ね」
本当に自分は彼の何を見ていたんだろう。エミリオのいいところなんて、ちょっと綺麗な見た目だけで、それも内面の醜悪さが滲み出てきて、今では嫌悪しか感じない。
「それに比べて、フェルさんって評価瀑上がりよ。昨日助けられた人たちなんて、神か何かを崇めるみたいに、一生ついて行きますアニキって言っているらしいわ。そう言えば、今日は一緒じゃなかったの?」
「そ、そんな毎朝一緒ってわけじゃないわ。今日は用があるみたいだし」
フェルの評判が予想以上に上がり、これまで何とも思っていなかった人たちも彼に関心を寄せるようになった。
それはいいことなのだが、マリベルは何だか複雑な気持ちになった。