せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか2 ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~
 かっこいいし成績優秀な割に、まったく鼻につかないし……クラウス様も、コンラート様となら仲良くやっていけるんじゃないだろうか。最初からウマが合わなければどうしようなんて不安を抱いていたが、今のところ心配なさそう。
「ここからは、マリーがひとりで寮までご案内いたしますわ。コンラート様は王宮住まいですけど、わたくしは辺境伯出身のため、寮生活ですの。だから寮生としても、どうぞよろしく頼みますわね」
 ずいっとコンラート様の前に立って、マリー様がクラウス様に話しかける。ものすごい前のめり感に、私が圧倒されてしまう。
「それじゃあ、僕は門まで一緒に行くよ。明日からまたよろしくね」
 コンラート様はクラウス様だけでなく、私にもにこりと笑みを送ってくれた。
 そのまま門前でコンラート様にと別れ、マリー様に学生寮まで連れて行ってもらう。学園の隣に建っている学生寮は、学園に負けず劣らず綺麗な外観と内観をしていた。
 ……どちらかというと、私は寮にいる時間のほうが長いのよね。いろんな場所を覚えておかないと。
 赤い絨毯が敷かれた廊下を歩きながら、私はずらりと並んだ部屋を眺める。
 専属侍女の私の仕事は、クラウス様の部屋の掃除や、衣服の洗濯などすべてが含まれている。寮に侍女が共用で使うための洗い場や、大きなキッチンも用意されているらしい。後で自分の部屋に行くついでに、その場所も確認しにいこう。
「この先のいちばん奥が、留学生専用の部屋ですわ」
「ありがとうマリー。助かった」
「いいえ。またなにかございましたら、わたくしにいつでも聞いてくださいませぇ」
 上目遣いでやたらと身体をくねらせて、マリー様はそう言うと、自分の部屋へ戻って行った。
「じゃあ行こうか。ユリアーナ。部屋に荷物が運ばれているはずだから、荷ほどきを手伝ってくれないか?」
「もちろん! というか、それが私の仕事なので。クラウス様はお休みになってください」
「嫌だ。一緒にやろう。そのほうが早く済むだろう?」
 それはそうだけど……主人にそんなことをさせていいものか。クラウス様はいつもこうやって、私の仕事を一緒にやりたがる。ありがたいけど、甘やかされすぎな気もする。
 用意された奥の部屋に入ると、とても広く綺麗で、快適に留学生活を送れそうな場所だった。
 一息つく間もなく、私たちは荷物を棚に整理したり、衣服をクローゼットにしまっていく。面倒なことは先に全部終わらせてしまえ、という作戦だ。朝からバタバタしたせいで、一度休むと再び動くのが億劫になることを、私もクラウス様も自分でわかっているからこその作戦である。
 ……前世では、こういった片付けも全部お母さんがやってくれていた。私が入院するたびに、私の好きな本や刺繍セットを持ってきてくれて、本当にいつも感謝していた。同時に、こんな小さな片付けすら任せてしまっていることを、申し訳なくも思ったりして……。
 なんて、思い出に浸りながら手を動かしていると、いつの間にか作業は終わっていた。
「やっと一息つけそうですね。今お茶を用意するので、クラウス様は座っててください」
「ああ……」
 部屋には小さなキッチンもついている。私は置いてある食器やポットを使って、慣れた手つきでお茶を淹れようとした――ら。
「……っ!」
 突然、後ろからクラウス様に抱きしめられた。おもわず、ポットを持つ手が止まる。
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