せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか2 ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~
クラウス様の瞳に映る私は、どんなふうに映っているのか。自分でその姿を確認することすら躊躇いを感じる。だって、絶対に情けない顔をしているに決まっているから。
――トントンッ。
無言で見つめ合っていると、その静けさを打ち砕くように、扉をノックする音が響いた。
「……クラウス様、出なくていいんですか?」
「あんなの無視すれば――」
トントンッ、トントントンッ。
無視を決め込んだものの、何度も何度もノックされる。
クラウス様は恨めしそうに扉を睨みつけると、前髪をぐしゃりとかき分けて、大きなため息を吐いた。
「くそ。こんなタイミングで邪魔するとは。……いつかのタイミングで呪術でもかけてやろうか」
とんでもなく恐ろしいことを呟きながら、クラウス様は私から離れて扉のほうへ歩き出した。私はまだ見ぬ扉の向こうの人物の身を心配しつつ、その様子を見守る。
ガチャリという音と共にクラウス様が扉を開けると、そこにいたのは……。
「……コンラート?」
まさかのコンラート様だった。
「寮まで来てどうしたんだ? もうとっくに帰ったのかと……」
私が疑問に抱いていたのと同じことを、クラウス様が問いかける。
「いや、渡し忘れたものがあって。学園まで引き返したんだ。……これ。明日からの授業表。必要な教材も全部記載してあるから、参考にして」
そう言って、コンラート様は一枚の紙をクラウス様に手渡す。わざわざここまで届けてくれるなんて……コンラート様は、女版リーゼかなにかだろうか。
「わざわざすまない」
「とんでもないよ。……ノックしてから扉が開くまで少し時間があったけど、もしかして取り込み中だったかな?」
申し訳なさそうに言うコンラート様のその言葉に、私はぎくりとする。
「あー……。たしかに、タイミングはよくなかったかもしれない。……そうだよな? ユリアーナ」
「えっ⁉」
そんな含んだ物言いで聞かないでほしい。まるで私たちのあいだになにかあったみたいだ。
「そんなことはありません! お気になさらず!」
クラウス様のにおわせを私が全力否定すると、コンラート様は私をじっと見た後、小さく笑った。
「……ふっ。顔が赤いよ。ユリアーナさん」
「……えっ」
指摘されたことで、よけいに顔がカッと熱くなる。
……どうしよう。コンラート様に変な勘違いをされてしまったかもしれない。
「それじゃあ、明日また学校で」
コンラート様はさわやかな笑顔を残したまま扉を閉めた。細められた瞳は、最後まで私を見据えていた。あの笑顔は本物か、それともなにか裏があるのか――今の私には、見当もつかない。
「コンラート……よくも邪魔してくれたな」
クラウス様は渡されたばかりの授業表をぐしゃりと握り潰す。
その後、私のギフト能力で紙の皺をすべて消し、壁には綺麗な授業表が飾られることとなった。
――トントンッ。
無言で見つめ合っていると、その静けさを打ち砕くように、扉をノックする音が響いた。
「……クラウス様、出なくていいんですか?」
「あんなの無視すれば――」
トントンッ、トントントンッ。
無視を決め込んだものの、何度も何度もノックされる。
クラウス様は恨めしそうに扉を睨みつけると、前髪をぐしゃりとかき分けて、大きなため息を吐いた。
「くそ。こんなタイミングで邪魔するとは。……いつかのタイミングで呪術でもかけてやろうか」
とんでもなく恐ろしいことを呟きながら、クラウス様は私から離れて扉のほうへ歩き出した。私はまだ見ぬ扉の向こうの人物の身を心配しつつ、その様子を見守る。
ガチャリという音と共にクラウス様が扉を開けると、そこにいたのは……。
「……コンラート?」
まさかのコンラート様だった。
「寮まで来てどうしたんだ? もうとっくに帰ったのかと……」
私が疑問に抱いていたのと同じことを、クラウス様が問いかける。
「いや、渡し忘れたものがあって。学園まで引き返したんだ。……これ。明日からの授業表。必要な教材も全部記載してあるから、参考にして」
そう言って、コンラート様は一枚の紙をクラウス様に手渡す。わざわざここまで届けてくれるなんて……コンラート様は、女版リーゼかなにかだろうか。
「わざわざすまない」
「とんでもないよ。……ノックしてから扉が開くまで少し時間があったけど、もしかして取り込み中だったかな?」
申し訳なさそうに言うコンラート様のその言葉に、私はぎくりとする。
「あー……。たしかに、タイミングはよくなかったかもしれない。……そうだよな? ユリアーナ」
「えっ⁉」
そんな含んだ物言いで聞かないでほしい。まるで私たちのあいだになにかあったみたいだ。
「そんなことはありません! お気になさらず!」
クラウス様のにおわせを私が全力否定すると、コンラート様は私をじっと見た後、小さく笑った。
「……ふっ。顔が赤いよ。ユリアーナさん」
「……えっ」
指摘されたことで、よけいに顔がカッと熱くなる。
……どうしよう。コンラート様に変な勘違いをされてしまったかもしれない。
「それじゃあ、明日また学校で」
コンラート様はさわやかな笑顔を残したまま扉を閉めた。細められた瞳は、最後まで私を見据えていた。あの笑顔は本物か、それともなにか裏があるのか――今の私には、見当もつかない。
「コンラート……よくも邪魔してくれたな」
クラウス様は渡されたばかりの授業表をぐしゃりと握り潰す。
その後、私のギフト能力で紙の皺をすべて消し、壁には綺麗な授業表が飾られることとなった。